可能性(ゼロではないにしても)
『この群れは、あなたがボスだからこそ成り立っているんです』
エレクシアはそう言ってくれるが、俺に言わせると少し違う。俺がこうしてられるのは、お前のおかげだよ。
ただの機械で、本当は心など持たない彼女が、俺を支えてくれてるんだ。この群れが成立してるのは、お前のおかげなんだよ、エレクシア。
俺はそう思ったが、口には出さなかった、ロボットである彼女は、それを決して認めない。『自分のおかげ』ということをな。なぜなら彼女は、人間をサポートするのが役目の機械でしかないからだ。
それでも……
そう、それでも、たとえ単なる機械でしかなくても、お前が認めなくても、今、人間である俺が正気でいられてるのはお前のおかげなんだよな。エレクシア……
メイトギア。場合によっては鬼神の如く恐ろしい存在にもなりうるが、人間の仲間として生み出された存在。それが実用化されてから既に三千数百年。お前達はもう、俺達人間にとっては欠かすことのできない仲間なんだなってのをつくづく感じるね。
きっと、ここでの俺とお前とのそれとはまた別の<物語>が、今もどこかで繰り広げられてるんだろうな。
この惑星でも、メイフェアXN12Aやセシリアと、光のお気に入りの絵本の本来の持ち主だったという秋嶋シモーヌ達コーネリアス号の乗員達との物語があったんだろう。
それは悲しい結末を迎えてしまったらしいが、俺はその時、ふと、自分の頭に浮かんできたことにハッとなっていた。
『悠が、基になったワニ少女をそのまま再現したものだとしたら、あの不定形生物は、コーネリアス号の乗員達そのものも再現することができるんじゃないのか……?』
普通に考えれば突拍子もない話だが、現に悠という実例がある以上、その可能性がゼロとは言えないと俺は思ってしまった。
『もし、もしそうなら、コーネリアス号の乗員そのものを再現した<人間>がどこかにいたりはしないのか……?』
まあ、たとえそういう事例があったとしても、この環境でただの人間がそうそう生き延びられるとは思えない。俺だってエレクシアと宇宙船と装備していた便利な道具の数々があればこそこうして生き延びられている訳で、悠のような既にこの環境に適応した状態で再現されたのならともかく、素っ裸の人間がただここに放り出されたんじゃ、それこそ誉を探しに出た時の俺が危険に曝されていたのと同じように数時間と生きていられないだろう。
生きていられない、筈だ、よな……?