余韻(に浸る暇さえないんか~い!)
正直、かなりヤバいとも感じた今回の一件だったが、終わってみれば誰一人犠牲を出すこともなく、結果だけを見れば俺達の圧勝だったと言えるだろう。
凶が明と刃によって倒されたことでさすがにボクサー竜も怖じ気づいたのか、残った奴らは密林の中へと姿を消した。
あの異常な行動をするボクサー竜をこのままにしておいていいのかどうかは改めて考えるとして、今はとにかく安堵に酔いたかった。
「よく頑張った! ホントみんなよく頑張ってくれた!」
さっそく、仕留めた獲物をバリバリと貪る伏達に向かって、俺は思わず声を掛けてたが、まあ、人間のようにここで笑顔で応えてくれるとかいうのがないのが、彼女ららしいところだろう。
ただ、エレクシアとセシリアだけは、
「ご無事で何よりです」
と言ってくれたが。
それと、光も、
「お父さん、大丈夫?」
って俺のことを心配してくれていた。いや、本来は俺が光の心配をするところなんだろうが、家の中に侵入してきたボクサー竜の首を捩じ切って倒す姿には、さすがだと感心するしかない。子供達の中では頼りなさそうに見える彼女にも、俺なんかじゃ足元にも及ばない強さが秘められてるんだなと改めて実感させられた。
周囲を見回すと、恐ろしいくらいの数のボクサー竜の死骸が散乱している。優に千は越えてるだろうという感じだった。よくこれをしのぎ切れたなと思う。だがそれと同時に、『これで当分は、食料には困らないかな』という考えが頭をよぎったりしたのは、俺も相当、ここでの暮らしに染まってしまったということだろうか。
事が終わったと察したのか、深と弦の姿はもうなかった。勝利の余韻に浸るような感性もないってことかな。自分達のデートが大事なのかもしれない。
あと、この時、ボノボ人間の群れが応援に来てくれたのは、誉がその群れに迎え入れられたということに他ならなかったらしい。何しろ、その群れが密林の中に帰っていく時に、誉も一緒について行ってしまったからだ。
一瞬、俺の方を振り返ったが、その顔には寂しさとか名残惜しさというものは感じ取れなかった。
『あばよ、親父』
そんな感じで実にあっさりした<巣立ち>だった。
來はしばらく力と悠に甘えるような姿を見せていたが、それさえ、家の中の片付けが終わる頃には見えなくなっていた。
こうして、<ボクサー竜による総攻撃>は、幕を閉じたのであった。