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決着(どうしてこうなった…?)

(めい)が、大きく開かれた(きょう)の口目がけて頭突きを繰り出した瞬間、ガキャッッ!!という、バイクが事故でも起こしたかのような音がその場に響いた。硬い物同士が激しく衝突した音だ。見ると、(めい)の頭がほぼ完全に(きょう)の口の中に入りこんでいた。


(めい)っ!!」


叫んだ俺の視線の先で、彼女は体を大きく振って、(きょう)を払い落とそうとするかのような動きをする。


その時点で、勝負は既についていた。地面へと叩きつけられた(きょう)が体を起こしたが、下顎はだらんと垂れ下がり、無数にあった筈の牙の多くが抜けたり折れたりしているのが分かった。顎の骨が外れたか、砕けたかしたのだろう。


結論から言えば、一対一の戦闘力ならば、(めい)の方が上だったということだ。いくら並のボクサー竜(ボクサー)よりは体も大きく強かったのだとしても、体格的には(めい)と大きくは違わない。むしろ彼女の方が若干大きいくらいの筈だ。


単純に、<強い方が勝つ>。それが野生というものだと思う。そして、(めい)の方が強かった。一対一で戦いを挑んだ時点で、(きょう)の負けは確定したのだと思われる。


しかし何故だ? 何故、あいつはそんな無謀なことをした? 野生の獣なら、勝ち目がないと分かれば逃げる筈だ。彼らに人間のような<プライド>に拘る非合理性はないんじゃないのか? 彼らにとっては死こそが敗北であり、生き残った者が勝ちなのだから。


それなのに、(きょう)は、なおも勝ち目のない戦いを挑んできた。下顎がだらんと垂れ下がった口はもはや武器としては役に立たなかったから鋭い爪を備えた後ろ足を構えて飛び掛かるものの、それらをことごとく(めい)に弾かれて、何度も地面に落ちた。


その姿は、どこか憐れささえ感じるものだった気がする。


それでもなお、憎悪に歪んだ目だけは最後まで力を失わなかった。そしてそんな(きょう)にとどめを差したのは、(めい)の母親の(じん)だった。<獲物>を仕留めきれない娘の不甲斐なさに痺れを切らしたのだろうか。それとも、しつこい奴に絡まれている娘を助けようとしたのか。


殆ど表情を作ることができない(じん)の無機質な顔からは、そのどちらなのか、それともどちらでもない他の何かなのかすら読み取れないままに、(きょう)の首を両方のカマでがっちりと捉えてそのままベキベキと首の骨を砕いていくのだけは分かったのだった。


それと共に、(きょう)の目の光も失われていく。最後の最後のその一瞬まで、憎悪だけは揺らめかせながら。


こうして、嵐のような一時(ひととき)は終わりを告げたということである。



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