逆転（まさかこんな展開になるとは）
メイフェアXN12A、誉、深、來を欠いた状態で辛うじて均衡を保っていた戦局は、彼女らが駆け付けてくれたことで一気に逆転した。ボクサー竜の一斉攻撃を上回る防御力を得たことで、＜飽和攻撃＞とは言えなくなったのだ。
俺の眼前には、まるでダンスでも踊っているかのように体を回転させながら右に左に奔り、エレクシアが舞っていた。血飛沫とボクサー竜の死体がまき散らされる凄惨な光景の筈なのに、俺はそれを美しいと思ってしまった。
とは言え、奴らの攻撃も止まない。一体、どれだけの数を揃えてきたと言うんだ……！？
だが、改めて明達の方を確認した時、密林の木の上にもいくつもの人影が見えた。ボノボ人間だった。ボノボ人間の群れが集まっていたのだ。
『おいおい、まさかこんな時に…！？』
と奥歯をぎりっと鳴らしてしまった俺だったが、どうも様子が変だ。と言うか、ボノボ人間もボクサー竜を攻撃してる…？
「ボノボ人間の群れを映してくれ！」
あらかじめ弾丸が装填された予備弾倉を使い果たしたことで、自動小銃の弾倉に弾を込めるついでに俺が命じると、宇宙船のAIがマイクロドローンのカメラを切り替えてくれた。そしてそこに映っていたのは、ボノボ人間の群れが、ボクサー竜を攻撃している光景だった。
なんだ？ どういうことだ？ なんで他の群れが俺達を守ろうとしてくれる……？
訳が分からなかったが、少なくとも今はありがたかった。ボノボ人間達は、木の上から手や足を延ばしてボクサー竜を捕え、首を捩じ切ったり噛み砕いたりして次々と倒していった。
思わぬ援軍を得たことで、戦局は完全にひっくり返った。ボクサー竜はただただ＜戦力＞を損耗していく。
流れが変わったことで、俺にも少し余裕が出てきていた。ひたすら弾丸を弾倉に込めつつ、カメラを次々に切り替えてもらって、皆の様子を確認した。伏も走も凱も鷹も翔も誉も深も弦も無事だった。多少、怪我をしてるようにも見えたが、致命傷を受けた印象はない。それが確認できてホッとする。
刃と明については、それこそ俺が心配するまでもなかった。誉達の援護も受けられたことからまるで流れ作業のごとくボクサー竜を薙ぎ払っていた。
しかし、安心したのも束の間、俺の体がギクッと緊張する。マイクロドローンのカメラに捉えられた映像を見て。
それは、＜あいつ＞だった。凄まじい憎悪の表情で、いや、本来なら＜表情＞など作れない筈なのだが、それでも紛れもない憎悪の表情で牙を剥いた、透明なボクサー竜の姿があったのだった。
