防壁(ただでやられてなどやらない)
『メイフェアXN12Aが私とのリンクを要請してきています! 許可いたしますか?』とセシリアに言われ、俺はもう咄嗟に「許可する!」と叫んでいた。
「再度確認いたします。メイフェアXN12Aとのリンクを許可しますか?」
との再確認にも、
「許可する! やれっ!!」
と殆ど怒鳴り声で応えてしまう。するとその瞬間、セシリアの表情が失われ、能面のような冷たい貌に変わり、自動小銃を放り出して窓から飛び出した。そのセシリアに、エレクシアがまたポケットから予備のナイフを取り出して投げ寄こした。
それを空中でキャッチしたとほぼ同時にナイフを振るい、セシリアがボクサー竜の首を薙ぎ払う。そこにはもう、あの穏やかな笑みを浮かべた彼女の姿はなかった。単なる戦闘マシンと化した<セシリアCQ202>というロボットがいただけだった。
一般仕様のメイトギアでも、百キロを超える人間を軽々と抱き上げる程度の身体能力は付与されている。それを最大限に活かせば、並の動物相手ならまず負けることはない。そしてそれは、メイフェアXN12Aとのリンクによってもたらされたものだった。
しかも、高い戦闘力を与えられているが故に最大稼働すると膨大な電力を消費する要人警護仕様機と違い、あくまで<人間よりは確かに強い>程度の力しか発揮できない彼女は、無線給電を受けられる範囲内であれば確実にメイフェアXN12Aよりも長く稼働できる筈である。まったく、戦闘力が低いが故に消費電力も少なくて済むとは、皮肉な話だ。
しかし、どうして急にメイフェアXN12Aとリンクが…?
簡単な話だった。誉と共に、彼女も駆けつけてくれたのだ。
それだけじゃない。刃や明が戦っている方を見た俺の視線の先には、深と弦の姿もあった。
お前達も駆けつけてくれたのか…!
高い戦闘力を持つメイフェアXN12Aと刃及び明をそれぞれ前衛にして、三人を、誉、深、弦、鷹、翔、伏、走、凱が支援するという形で、陣形が再構築されていた。
なお、この時、メイフェアXN12Aも、戦闘モードではあるが敢えて最大稼働は行わず、電力消費を考慮した戦闘を行っていたそうだ。
そして反対側は、約三分の二をエレクシアがカバーし、残りの半分をセシリアが、さらに残りを力と悠と來がカバーするという完璧な防壁が築かれた。
さらに、たとえ家の中に討ち漏らしたボクサー竜が侵入してこようと、密も光も焔も新も彩も凛も、ただ守られるだけの存在ではなく、俺達の家を、群れを守る為に戦ったのだった。