疑念(まさか、いくらなんでもそんなことが……)
ボクサー竜の接近に気付いた力と悠が、池から上がって身構えるのが窓から見えた。
何故だ? あいつらは池に隠れてればいいだけの筈なのに。池の中なら、もし入ってきてもワニ人間の敵じゃないのに。
もしかしたら、力と悠にも分かっているのかもしれない。この群れが壊滅すれば、自分達の心地好い環境も破壊されるのだと。二人はそれを守る為に戦おうとしているのかもしれない。
俺も、ただ閉じこもってるだけではいられなくなった。窓を少し開けてそこから自動小銃で密林から飛び出してくるボクサー竜を狙う。と言っても小さくて素早い奴らにはなかなか当たらないが。それでもとにかく撃つ。
別の窓からは、俺と同じようにセシリアが自動小銃で奴らを迎撃した。戦闘力を持つ要人警護仕様機じゃない一般仕様機の彼女だったが、それでもただの人間の俺よりは狙いも正確で、確実に倒していった。やっぱり、俺が一番、役に立ってない気がする。
しかしそんな風に凹んでいる暇もない。今はとにかく迎撃が必要だ。するとエレクシアが俺を守る為にこちら側に回ってきた。向こうは刃達に任せたということだろう。
正直、皆で宇宙船に立てこもればよかったかもしれないとも思った。そうしてエレクシアに駆除を任せればよかったとも思う。だが今更それを言っても遅い。光以外は素直に俺の言うことを聞く訳もなく、エレクシアに強引に保護してもらうとしたら、最初に保護してもらえるのはいいとしても、後になればなるほど戦力差が大きくなって危険が増す。
桁違いに強い刃でさえ、ロボットと違ってスタミナは無限じゃない。力尽きれば数に押し切られるだろう。
くそう! せめてこれほどの異常な数だというのが分かっていれば……!
が、そう考えた瞬間、俺の頭に閃くものがあった。
『まさかこいつら、こっちの警戒網の外に拠点を作ってそこで準備をしていた……?』
いくらなんでも、ボクサー竜がドローンや対物センサーの位置を把握してそれに捉えられない場所で着々と準備を整えて俺達を包囲し、そして一斉に攻撃を仕掛けてきたなんてことが……?
普通に考えれば有り得ない。有り得ない筈だが、あの透明な個体が明らかな悪意を感じるニヤァという笑みを浮かべるように歯を剥き出したり、忌々しそうに口の端を歪めたりという姿も思い出されて、『あいつなら……』という思いも頭をよぎってしまった。
だとすると、これは非常にヤバい状況なんじゃないのか……!?