モニカとハートマン編 忌風
いずれにせよ、未来は、クロコディアとしての形質を引き継ぎ、粗暴で凶暴な性質であることは疑う余地もないと思う。だが、そんな<生まれつきの性格>だけで決まってしまうものでもないことを、俺は知ってる。
だからこそ、未来の振る舞いに対してキレたりはしないように心掛ける。すぐに人間(地球人)では勝てないほどに強くなるだろうが、それでも今の時点ではまだ俺達の方が強い。自分より弱い相手に居丈高に振る舞うのは、人間を育てる場合においては、
『自分より弱い相手に居丈高に振る舞っていい』
ということを子供に学び取られせてしまう可能性が高く、リスクを伴う行為であることも判明している。
『他者を気遣う』
『他者を思い遣る』
それらは、<言葉>と共に赤ん坊の頃には親や周囲の人間の振る舞いから学び取ることなんだ。
ちょっと気に入らないことがあるからとすぐにキレたりするという姿も、子供は実によく見ている。
子供の前でそういう姿を見せるというのは、他者に対してすぐにキレるような人間にしてしまう可能性の高いものなんだ。
特に、<生まれつきの性格>が粗暴だったりするとな。
自分や自分の家族を理不尽な出来事から守るために戦う必要があるのは事実だろう。しかしだからといって自分が、
<他者を理不尽を攻撃する人間>
になっていたんじゃ意味がないんだ。自分が<加害者側>になっていたんじゃ、当然、周りから攻撃される。自分の加害行為から身を守るために周りも対応しなきゃならないからな。
自分が他者を害することで<敵>を作り、その<自分が作った敵>から身を守るためにさらに攻撃的になるとか、それこそ、
<悪質なマッチポンプ>
というものじゃないか。
俺はルコアや未来をそういう人間にしたくはないし、もちろん久利生もそんなことは望んでない。
『自分や自分の身内を守るために備えるのは大事だが、だからといって自分が加害者になっては意味がない』
それをルコアや未来には分かってもらわないといけないと思う。
もちろん、ルコアや未来だけじゃなく、これから<朋群人>として生きることになる者達には、な。
さりとて、<危険>というものはいつだって身の回りにあるものだ。
ルコアに抱かれてご満悦の未来を、久利生が、ビアンカが、モニカが、ハートマンが、テレジアが、グレイが、穏やかに見守っていたその時、ざあっと強い風が吹いた。
「!」
瞬間、久利生とビアンカが引き締まった表情になる。なぜなら、それは、この時期の普段の風向きとは違ったからだ。いつもとは逆方向から風が吹き付けた。
もちろん、風が巻いていろんな方向から吹くことはある。しかし、それでも基本的な風向きというものはあるんだ。
そしてこの時の風は、ビクキアテグ村にとっては、
<災いをもたらす忌風>
となったのだった。




