明と光(巣立っても二人の仲はそのままらしい)
とまあ、子供の巣立ちを見届けてやれなかった駄目な俺だったが、明は俺達の家からすぐ近くを縄張りとしたらしくマイクロドローンでの監視範囲からは出て行ってなかったから、いつでも姿を確認することはできた。
ところで、マイクロドローンはちょくちょく壊されるんだが、実はコーネリアス号の工作室で次々と新しいのを作ってもらって補充していた。ただし、バッテリーについては、最も重要な材料である化学物質がここでは手に入らないので作ることができない。バッテリーそのものは作れるが、ここで手に入る材料で作れるのは、それこそ二十一世紀頃のレベルのそれでしかないので、まったく実用性がないのだ。フル充電で一日ももたないとか、当時の人間はよくこんなもので納得してたなと関心すらしてしまう。
まあそんな訳で、壊されたマイクロドローンもなるべく回収し、バッテリーが無事なら新しいものに載せ替えて使うようにしていた。耐久性は百年単位だからな。新しいバッテリーが手に入らない以上、使い捨てにはできない。
と、それは置いといて、とにかくマイクロドローンの映像で、俺は明の姿を確認して安心していた。狩りの様子も既に刃と何一つ遜色ない感じだ。年齢はやっと三歳を過ぎたところだが、誉達よりは元々、成長が早いというか巣立ちの時期が早いんだろうな。単独行動で群れのルールとかを学ぶ必要がないことも影響してるのかもしれない。
「光は寂しくないか?」
明と仲が良かった光にそう尋ねてみる。すると彼女は「ううん」と首を振った。
「だって、いつでもあえるから」
まあ確かに、時々、家のすぐ近くまで来て、光とは顔を合わせてるようだった。絵本の読み聞かせもやってるらしい。
だがそんなある日、事件が起こった。
家の周囲に張り巡らせていた、マイクロドローンと対物センサーによる早期警戒網に反応があり身構えると、光が密林に少し足を踏み入れたところで明と一緒に絵本を読んでいるところが見えた。
「光! ボクサー竜が来てる! 家に入れ!」
俺がそう声を掛けると、彼女はさっと絵本を手に立ち上がってこっちに走りだそうとした。だが、手が滑ったのか絵本を落としてしまった。それを拾う為に振り返った光の前に、密林の中から何かが飛び出して襲い掛かるのが見えた。ボクサー竜だった。
「!?」
『光っ!!』と俺が声を掛けるよりも早く、そのボクサー竜を空中で捕えたものがいた。凄まじい速さで移動し、カマを伸ばした明の姿がそこにあった。