事件(そういうものはどうしても起こるか)
そんな風に、誉の後についていくことで結果として本人の修行にもなってた深だったが、彼女自身としては、ぜんぜん、そんなつもりはないんだろうなあ。
獲物として捕らえたボクサー竜をガフガフと喰らう様子を、自分で絵本を読むようになった光を膝に抱きながら見つつ、俺はそんなことを考えてた。
さらに一年が過ぎて……
深達ライオン人間の本来の生息地は草原だから、ここでは勝手が違ってしまうし、申し訳ないと思ってる。だから最近では、セシリアとメイフェアXN12Aが夜にメンテナンスに行く時に、走と凱も一緒に連れて行ってもらって、コーネリアス号の周囲で遊ばせてやるようにしてもらってた。本来夜行性だからそれでちょうどいいし。
ちなみに、メイフェアXN12Aが留守中はエレクシアが誉を守るということで了承してもらってる。あいつの傍を離れるのは嫌だろうが、自分より圧倒的に高性能で強いエレクシアが代わりということで納得しようとはしてくれてるようだ。まあ、当の誉が昼間の修行で疲れて夜はぐっすりだけどな。それでも、たまにヒョウ人間辺りの遠吠えが聞こえたりすると警戒して目を覚ますから、その辺りはさすが野生か。
で、深に話を戻すと、誉の傍を離れるのが嫌なのか、メイフェアXN12Aがいるから嫌なのか、彼女は走や凱とは一緒に行こうとはしなかった。お気に入りの玩具で釣っても駄目だった。
だがそんなある日、事件は起こった。
いつものように誉についていった深だったが、その日はたまたま誉の前に現れた<兵隊>がどうも性格の悪い奴だったらしく、撤退させないように回り込んで挑発したようなのだ。それにメイフェアXN12Aが気を取られた隙に、運悪く深の前に、あの透明なボクサー竜が現れたのだった。
その透明なボクサー竜は他の奴よりも大きく、そして強かった。
「ガアッ!!」
攻撃を躱して彼女の肩口に食らいつくと、深が悲鳴を上げた。しかもそれを振り払って逃げたはいいが、密林の奥、誉からも俺達の家からも離れる方向へと逃げてしまった。
「マズい!?」
俺がそう声を上げると、気配を察したのか、膝に座ってた光が跳び退く。大人しそうに見えてもさすが野生の血を引いてるな。と、今はそれどころじゃない!
「エレ―――――!」
『エレクシア! 深を助けろ!』と俺が命令するよりも早く、家の中から飛び出して密林の中へ駆け込んで行った影があった。
深の母親、伏であった。