ボノボ人間(密や誉達の種族の生態について)
誉の行動を観察していることでさらに分かってきたことだが、密や誉の種族である<ボノボ人間(仮)>は、群れのボスとして強い雄を頂くハーレムを中心に、大半がボスの子である若い雌と、他の群れから来た雄によって構成されているらしい。雄は、ある程度の年齢(恐らく五歳前後。と言っても見た目には人間の十二歳前後くらいだが)になると群れを出たり追い出されたりするようだ。
そして、他の群れから来た雄は、次のボス候補であると同時に群れを外敵や他の群れから守る<兵隊>でもあるとみられる。
で、若い雄が他の群れに入る為には、兵隊になれるだけの力を持っているというのを示す必要があるということだろうな。誉が今、他の群れと小競り合いをしてるのがまさにそれで、そこで認められれば晴れて群れに迎えられるということになり、それこそが彼らの<巣立ち>なのだと推測されていた。
一方、雌は原則として群れから出ることはないので(もちろん例外あり)、実を言うと、強い雄をボスに頂きつつも実際に群れを支配しているのはボスの寵愛を受けている雌達であり、実質的には強烈な女系社会のようだった。その為、密のように何かの理由で群れから追い出された雌は、本来、若い雄のように他の群れにも受け入れてもらえずに、野垂れ死にする運命だったのかもしれない。俺は危うく、密をそういう状態にしてしまうところだったという訳だ。それが今では俺の<群れ>で一応は安穏としてられるんだから、何が幸いするか分からないものだな。
なお、ボスの子である雌と他の群れから来た若い雄とでもカップリングは行われるようだが、そういう形で生まれた子供達は群れの中では、ボスの直接の子よりも確実に地位が低く、扱いは良くないようでもある。
とは言え、俺が<ボノボ人間>と仮に名付けるくらいだから彼らは人間と同じく生殖を目的としない濃密なスキンシップを異性同性関係なく行う訳で、しかもボスのものである筈の雌と、兵隊である雄も、何だかんだでそういう関係になるようなので、ハーレムの一員の雌が産んだ子が本当にボスの子なのかどうかは、正直、疑問が残るところでもあるかな。
さらに、ボスの子じゃないとして生まれた場合でも、群れのでき方を考えると、雌の場合は次のボスの寵愛を受けるか、雄の場合は他の群れに行ってボスとして伸し上がるかという形で一発逆転もありえるんじゃないだろうか。
また、ボスに匹敵する力を持った強い雄が現れて、しかし力が拮抗してなかなか交代劇が起こらなかった場合には、群れそのものが分裂して新しい群れができる可能性もある。実際、この近くにいる群れの一つが今まさにボス派と非ボス派に分かれて内紛が生じ、ほぼ分裂に近い状態になっているようでもあった。これについてはなかなか興味深い事例なので今後も注視していこうと思う。