主人(と言っても仮のだけどな)
『私は今後、あなたに忠誠を誓います。あなたに従い、あなたを守ります』
誉とメイフェアXN12Aを連れ帰った日の翌日、懐いていた誉が抱き付くと、メイフェアXN12Aはそんなことを言い出した。
そう言われた当の誉の方はさすがに言葉の意味は分かっていなかったのか彼女の頭に上ったり下りたりを繰り返していただけだったが、俺は正直、呆気に取られていた。
若い個体にありがちな無謀な真似をしただけの筈の誉が、まさか<嫁>を見付けて帰ってくるとか。なんだこれは? マンガか?
そんな彼女に、エレクシアが確認する。
「あなたはあくまで、誉をマスターとして正式に登録するということですね?」
いつも通りに冷静で端的な問い掛けに、メイフェアXN12Aも淡々と応える。
「はい。厳密にはマスターの更新は現時点ではできませんが、私のマスターである<JAPAN-2社>への帰還が絶望的であり、経過した期間から考えても法律上は既に、私についてのJAPAN-2社の所有権も失効しているものと考えるのが妥当でしょう。
そうなれば、私が自らの機能を発揮する為にはマスターの登録が必要です。故に、私は誉様をマスターに頂きたく思います」
メイフェアXN12Aの言う通り、コーネリアス号が遭難し、手掛かりさえ掴むことができずに二千年が経過した以上、彼女の法律上の所有者であったJAPAN-2社の所有権も既に消滅してると考えるのが普通だ。たとえ仮に消滅していなかったとしても帰還できなければ彼女は主人のいない<野良ロボット>と変わらない。
同じ立場だったセシリアは俺を新しいマスターとして登録したからすべての機能を使える状態になっている訳で、メイフェアXN12Aも、非常時の仮登録ではあってもマスターの登録をしなければ、戦闘モードも使えないからな。
まあいい。取り敢えず、メイフェアXN12Aも、誉を通じてだが俺達の<群れ>に加わったということか。
その夜、誉が寝付いてから、セシリアに連れられてコーネリアス号に<帰還>した彼女は、メンテナンスルームに保管されていた、自らが最初に起動した時に用いられたブックレットを探し出し、そこに記されていたコードを再入力することで、『正式に誉を仮の主人として』登録できたのだった。
実は、完全に主人を変更するには、初期状態から新しく登録し直すか、元の主人からの正式な所有権放棄の手続きが必要なんだが、正式な所有者であり主人であるJAPAN-2社とは連絡も取れないし、下手に初期化すると、バックアップデータから復元しても完全に今の彼女に戻れる保証がなかった故の判断であった。