ルール『義務』
「まぁ、まずはルールの把握からだね。」
莉穂はそう言って端末を取り出した。
俺もそれにならって取り敢えず端末を出す。
雪君も端末を取り出して、それから画面を少し弄った後に咳払いをして、俺を見つめた。
「それじゃあルール説明します。
よろしいですか?
…ちなみにルールを聞いた後は、どんなことがあろうともオークションの義務や責任から逃げることは出来ないので、そこを覚悟の上で了承して下さい。」
「待った待った、義務とか責任…って何?」
早速分からないことだらけで慌ててそう尋ねると、雪君は莉穂へ視線を向ける。
「この人説明してなかったんですか?…まぁ、まだ参加してないならいっか」
呆れたように言った雪の言葉に、俺は思わず莉穂へと視線を向けた。
「参加してるなら、聞いてないとおかしい内容なの?」
言葉は雪君へと向けられているが、俺の目は完全に莉穂を見ている。
「ええ…普通は…ってその反応はもしかして…!」
雪君の莉穂を見る目が、ギロリとでもいうかのように睨み付けているものになる。
その様子を見て、もしかしてかなりやばい事なのかもしれない、と二人の顔を見比べた。
次の瞬間、雪君は怒濤の勢いで莉穂に説教をした。
「ちゃんと説明しないとペナルティ食らうのはあなたなんですよ!?あまり自由にやり過ぎないでください!」
「ごめんって。つい、ね?」
本当に反省してるんだよ?と雪君を両手を合わせて上目遣いで見詰める彼女の可愛いさに、思わず二人の間に入って仲裁する。
「と、とにかくルール説明して欲しいなー?」
雪君の怒りはまだまだ止まないようだが、取り敢えず強引に話を元に戻すことにした。
正直な話、彼が何故ここまで怒っているのか俺にはわからないので早々に説明してもらいたい、という思いもある。
「…もう参加してしまったようなので後には引けないのですが、一応義務と責任の話は大事ですのでしておきますね」
ため息をついてそれから説明を始める。
「このオークションは無料です。参加自体は。
でもタダっていうのには危険が伴うんですよどんな時だって。
それが、このオークションの『責任』です。」
その言葉に、思わず緊張する。
雪君はそんな俺を見て、そんなに緊張しないで下さい、やりにくいです。と苦笑した。
それから咳払いをして端末を出して電源を入れる。
取り敢えず俺もそれに倣って同じように電源を入れた。
「まず、このオークションは基本的にこちらの端末を使って行います。これはこのオークションの参加証で、他の人は操作することが出来ないものになっています。」
試すように雪君が俺の端末を触るが、まるで液晶が壊れてしまったかのように画面は一切反応を示さない。
それから雪君の端末も莉穂の端末にも触れさせてもらったが、二人の端末は俺の指に全く反応を示さなかった。
「ちなみにこの端末は車に轢かれても東京タワーから落としても壊れませんし、落とした場合もオークション会場に必ず届けられます。」
雪はそう言って、端末を振りかぶって地面に思いっきり叩きつける。突然の事に驚いていると、雪はしゃがんで端末を拾い上げて画面を俺に見せてくれた。
「すごいんだね」
「はい。
そしてこの端末は毎回のオークションのジャンルと出品物。それから新規出品物にオークションの日程がメールで毎日送られてきます。毎日確認するのをオススメします。」
「ふーん」
普通の携帯と同じ場所にあるメールアイコンをタップすれば、早速今日のメールが入っていた。なるほど、これか。
「それから、プロフィールのページを開いてください」
そう言われ、朝開いた通りにプロフィールページを開いて雪君に見せようとすれば、彼は「見せなくていいです」と言った。
「それは大切な情報です。無闇やたらと見せればあなたが不利な状況になりますので出来るだけ人に見せないよう心掛けてください。」
「そうか」
それから彼はプロフィールの自分の名前の下にある数字を見てください、と言った。
これは昨日莉穂の言っていた『エン』という奴だろうか?
「これはこのオークションでのみ使うことの出来る資金、通称『エン』です。
俺達に与えられた架空の『エン』と呼ばれるマネー。それを使ってオークションを行います。
そしてエンはあなたの未来で手に入れる予定のお金です。
好意的に未来の資金を出してくれているので、滅多にマイナスを叩き出すことはありません。
でも、よく考えて使ってください。」
そして、彼はここからが重要なんですけど、と前置きをして、口を開いた。
「エンが0になった瞬間、このオークションの失格を意味します。」
「失格?」
「その名の通り、失格です。
そして、ここで大事なのが、先ほど言った『義務』と『責任』です。
オークションへの参加は言わば『権利』…してもしなくても構わないのですが、オークションの参加を一度でもした人には所持金が0になった時に失格になる義務がついて回ります」
「失格って言うのは…?もしかして借金出来るとか…?」
昨日のオークションを思い出して、確かにあの額の借金が出来るって考えるとかなりキツい。
「いえ、ここで開かれるオークションに参加できなくなるだけです。」
「それだけ?」
「はい。それだけです。」
なんだ、とちょっと呆けてしまった。
つまり、宝くじを買う権利を無くしてしまうようなものか、と。
少しだけ緊張して張っていた肩を落としてホッとした顔をした俺に、雪君は表情を固くして言った。
「もう1つ、責任の話をしますね」