表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

案内役は…

昨日来た、古びた映画館のロビーの、少し埃っぽいソファに二人並んで座る。


「そう言えば、昨日突然ここに連れ込んだせいで彼とは会ってなかったよね」

「?誰」


そう言えば、彼女は携帯を取り出して番号を打ち、電話をかける。…いいなぁ、俺も彼女と連絡を取り合いたいなぁ。


「今すぐ来てくれない?…あー残念だけどこれは業務の範囲内であなたは来る義務がある。文句なら来てから聞くからね?じゃ、よろしく。」


彼女はそう言って電話を切る。

それから物欲しそうな目で電話を見つめる俺に気付くなり、クスクスと笑った。


「アドレス交換する?それともLINE?」

「い、いや。そういう意味じゃなかったんだけど。…いいの?」


聞けば、頷いてくれたので、慌てながらも携帯を差し出す。

もちろんQRコードを表示した状態で。


「うん。追加したよ。」

「ほ、本当だ。」


LINEの友達欄に増えた名前を見て、そこでやっと彼女の名前を知らなかったことに気が付いた。


「いだばしりほ…?」

「読み方、依田橋っていうの。いじゃなくて、よ。よだばしね」

「ごめん!はじめて見る苗字だったから」


…はじめてじゃないんだけどね、と彼女は言ったが、俺の耳には聞こえなかった。

傷付いた表情を浮かべた彼女を見て、名前を間違えられた事がそんなにショックだったか、と謝罪すれば、別に気にしてないよ。と言われてしまう。それから、しばらく気まずい時間が流れていたが、携帯が着信を知らせ、無音の時間が終わる。


「彼がこっちに来るって。」

「あ、うん。そう、そうなんだ…えっとその」


次に何を言えばいいのか分からなくて口ごもっていると、その様子を見た目の前の彼女がふふっと笑んだ。

意地悪しすぎたね、と言われて、からかわれた事に気付く。


「私の事は里穂って呼んで。ねぇ、あなたの事はなんて呼べばいい?」

「えっと…俺は浩太。」

「そう。なら、浩太って呼ばせてもらうね」


手を握られ、向かい合う。

これは…これはもしや、キスをするタイミングなのでは…?とじっと里穂を見つめて喉をならす。

そして顔を近づけて、あと少しというところで。

コホン、と咳払いが聞こえ、音がした方に目を向ければそこにはマフラーを着けた背の高い、けれど不思議と威圧感は感じさせない黒髪の男が立っていた。


「見せ付ける為に俺を呼んだの?帰っていい?」


男はどうやら里穂に先ほど呼ばれていた『彼』らしい。

里穂はそれを聞いて、そんなにラブラブに見える?と笑った。

言われた男は返事の代わりにしかめっ面を返して、早く本題に入らせろ、と不躾に言った。

慌てない慌てない、と彼女はマフラーをした男を諌めて、咳払いを一つ。それから彼の説明をしてくれる。


「はい、それでは御対面!こちらが案内役兼ここのオークションの参加者を務めるマフラー君でーす!」

「…どうも」


青色のマフラーに顔を埋めた彼は彼女からそう紹介された後、ぶっきらぼうにそう言って俺に手を差し出す。取り敢えず、手を握り返した。


「えっと…マフラー君だっけ…?はじめまして。」

「雪でいいです。」


こんな変な渾名で呼ぶの、この人位なんで。そう言われて里穂を見ればペロリと舌を出してウインクをした。


「雪くんね。あれ?その服…」

「ああ、制服です。別に服装の指定ないので。」

「高校生!?」


確かに若いとは思ったけれど、高校生とは思わなかった。彼の背の高さも相俟って完全に社会人か大学生だと思っていた。


「何cm?」


恐る恐る尋ねてみれば、彼は187cmです、と答えてくれた。でかい。

俺と10cm以上差があって、思わず何かスポーツやってる?なんてどうでもいい事を聞いてしまった。

彼ははい、と答えて、それから一応テレビに出た事もあります、と、仄かに自慢気に話した。


「なんのテレビ?っていうかどのスポーツ?」

「そんなことより!」


雪君との会話に痺れを切らした里穂は、俺と雪君が会話する間に入って、会話を中断させる。


「今日のオークションまでに、大体のルールを知っておかなきゃね?」


その言葉に俺は、今日もあのオークションに参加するのか、と諦めつつ、ほんの少しだけワクワクしている自分に気付かないふりをした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ