四日目「傷跡」
「ドイツは?」
「顎がしゃくれてる」
「フランスは?」
「鼻が長い」
「日本は?」
「へちゃむくれ」
「何の話をしてるん?」
「あぁ、会長さん。乗用車を正面から見た時の印象の話をしていたんです」
「そこの駐車場に並んでる車が、表情豊かだなぁと」
「そう言うたら、そうやね。ん? あれは、何やろう?」
「あら。誰か、一輪車に乗ってますね」
「赤いスカーフだから、一年か。コーンの周りを回り始めた」
「そのまま、ポケットからボールを出して、ジャグリングか」
「抜群のバランス感覚。あっ、今度は背中から、画用紙らしきものを出した」
「何か書いてありますね」
「奇術部長、番場から。二枚目もあるのか」
「生徒会の、皆さまへ。三枚目もあるみたいやね」
「お話しが、あります」
「どうやら、今日の相談者は」
「彼女で、間違いないみたいやね」
「この高校で唯一の奇術部員ということで、そのパフォーマンスを見せていただきましたが」
「どんな手品が出来るのかと思ったら」
「中国独楽に、パントマイム、シガー・ボックス」
「スティルトやピエロにもなれますよ」
「どちらにしても」
「手品というよりは」
「大道芸やね」
「お三方も、そう思いますか。あたしの悩みは、そこなんです」
「いわゆる、マジックは出来ないのかしら?」
「そうそう。トランプとか、コインとか、ロープとかを使ったり」
「シルク・ハットから鳩を出したり、ステッキを花束に変えたり」
「うぅん。挑戦したことは、あるにはあるんですが」
「もしかして、物にならなかったのかしら?」
「そうだとしたら、意外」
「そこんところ、どないなん?」
「出来なくは、ないんです。元は、マジックが中心でしたから。でも、中学生の時に、同級生の一人から、本番中にトリックを見破られたことがありまして」
「それは、トラウマになるわね」
「でも、高校に入っても、こうして奇術部員をやってるってことは」
「また人前でマジックをやりたいっちゅう気持ちは、残ってるってことやの?」
「それは、やりたいですよ。けど」
「それなら今、ここで何かやってご覧なさいよ」
「種を明かすような真似は、絶対しないから」
「ここらで一歩、踏み出してみ?」
「これで、嫌な経験を克服できたらえんやけど」
「ウゥム。それにしても、何度考え直しても、不思議」
「事前に打ち合わせをした訳では無いんですよね、会長さん」
「うちは、サクラやない。彼女とは、今日の放課後になって初めて会うたんやから」
「ますます、謎が深まる。どうも、悔しい」
「あら。種を明かすような真似は絶対しないって言ってたのは、どこのどなたでした?」
「すっかり、惑わされてしもうたんやね」
「麻衣は、気にならないのか?」
「そうやって口をへの字にして眉間に皺を寄せていると、日本車顔ですよ」