二日目「逆行」
「バイブが鳴ってるわよ、佳奈ちゃん」
「それ、ニュースか、ディー・エムだから」
「ほんなら、放っておいても平気やね」
「すみません。お話中ですか?」
「お構いなく。どうぞ」
「青のスカーフだから、会長と同じ三年か」
「関瀬さん、やね?」
「はい。良かった。名前を覚えてる人がいて」
「お知り合いですか、会長さん」
「その割には、よそよそしいような」
「入試のときに隣の席やってん。ボールペンを忘れたもんやから、貸してもらったんよ」
「それだけのことです」
「それだけってことは無いと思いますよ?」
「そうそう。貸さなかったら、受からなかったかもしれないし」
「あの時は、本当に助かったわぁ。そのお礼と言うのも何やけど、何でも相談に乗るから、話してみ?」
「はい」
「写真部も、新入部員不足なのね」
「スマートフォンに押されてる感じだな」
「わざわざ重たいカメラを首から提げる必要性はあらへんもんなぁ」
「そうなんですよねぇ」
「そこは自信を持ちましょうよ」
「そうそう。そこでアナログ機器にしかない魅力をアピールしないと」
「奥床しいのんも結構やけど、せっかく才能があるんやから、宣伝せぇへんともったいないわぁ」
「そんな、才能なんか」
「ありますよ。昨年の文化祭で作品を拝見しましたけど、思わず息を呑みましたもの。ねぇ、佳奈ちゃん」
「あれは、凄かった」
「少なくとも、ここの三人が支持してるんやから、それを無駄にせぇへんようにして欲しいわぁ」
「あぁ、肩が凝った」
「初日とは逆方向で疲れたわぁ」
「足して二で割りたいところですね」
「本当にね」
「これで、出来ない理由を見付けて諦めるんやなしに、どないしたら出来るのかを考えるようになってくれたら、こっちとしては万々歳なんやけど」
「難しいところですね。――バイブが鳴ってるわよ、佳奈ちゃん」
「だから、これは、ニュースか、ディー・エムなの」
「要らん情報に限って、しつこうに何度も送られてくるんよね」
「それによって、欲しい情報が埋もれてしまうんですよね」
「上質なものは、作るのに時間がかかる」
「せやから、速さと量の勝負になると負けるって訳やね」
「効率を追求すると、つまらないものが量産されますものね」