前日「発端」
「男もすなる日記というもの」
「女もしてみんとてするなり」
「紀貫之が現代に居たら、ネカマになってたかもしれないわね」
「あるいは、女装家かも」
「衣冠束帯を脱いで、十二単を着るの?」
「そう。それで、顔に白粉、歯は鉄漿で、大垂髪の鬘をかぶるの」
「五月人形が、お雛様の格好をしてるってところね」
「うわぁ、呪われそう」
「夜な夜なケースから抜け出したり、髪が伸びたりするんやね?」
「あっ、会長さん」
「こんちは、会長。その封筒は、もしや」
「お察しの通り、毎度ご迷惑な、生徒指導部からの依頼状。教室の前で待ち伏せされとって、目が合うた途端に渡されたんよ」
「鳴尾先生も、神出鬼没ですよね」
「ボスを視界に入れないように、目を伏せて歩かないと」
「ルナさんは、熊や猪とは違うんよ?」
「撃ち落して退治する、というわけにもいきませんものね」
「……麻衣って、ときどき不穏な発言をするよね」
「虫も殺さへんような雰囲気やのにね」
「それで、依頼内容のほうは?」
「そうそう。忘れるところだった」
「忘れたいところやけどね。読み上げるわね」
『生徒会長、杭瀬郁。書記、中津佳奈。会計、今津麻衣。以上三名は、来週一週間、毎放課後、文化部長のカルチャーな悩みの相談に応ずることを命ずる。放課後は速やかに、生徒会室で待機するように。尚、引き戸は全開にしておくこと。生徒指導部、鳴尾ルナ』
「いつから生徒会は、万屋さんになったのかしら」
「カルチャーな悩みって何?」
「うちに聞かんといて」
「来週になれば、はっきりしますよ」
「そうか?」
「そういうものやと思っておくしかないんと違うかな」