第九十七話 守護霊使いの村②
「……試練?」
『ええ……』
ライトはルーシーのほうを見つめて、冷淡な口調ではっきりと言い放った。
『――守護霊が体内に入っても、耐えうる身体であるかどうか、試すものです』
◇◇◇
僕の身体に、別の何かが入り込んでくる。
僕の心を、何かが破壊しようとしている。
「僕の身体を、乗っ取ろうとしているのか……!」
僕は、僕は、僕は――!
いいや、だめだ。
フルは予言の勇者としてエルフの加護を得ている。メアリーを助けるためには、僕だって強くならないと――。
「お願いだ。協力してくれ。守護霊」
僕は、そういって右手を差し出す。
自分を殺そうとしている相手に無防備に利き手を差し出す行為――はっきり言ってそれは自殺行為だということは解っている。けれど、僕はそれでも。
「強くなりたい」
その言葉が、自然に零れる。
一度その堰が壊れてしまえば、言葉はどんどん溢れてくる。
「僕は……何でも知っているメアリーや予言の勇者のフルと比べれば取り柄がない! だから強くなりたかった。誰かに守ってもらうんじゃなくて、自分自身を、味方を、みんなを、守ることのできる力が欲しかった!」
守護霊の攻撃が、僕の身体に当たる。
痛みは無い。その代わり、ぶつかった場所から煙のようなものが出てきて、僕の身体がそこを皮切りに消えようとしている。
「お願いだ。君は力を持っているのだろう? 僕は君を傷つけるつもりなんてない。僕はただ、みんなを守る力が欲しい! ただ、それだけだ!」
そして、僕の視界が光に包まれた――!
◇◇◇
「……ルーシー、大丈夫か……?」
僕たちは、ライトから言われたように彼女の前で待機していた。ほんとうはすぐにでも駆けつけたかったが、ライトからそれを抑止されてしまっては何も出来ない。ただ僕たちは、ルーシーの試練、その結果を待つしかなかった。
ルーシーは横たわったまま、動かない。
「ルーシー……大丈夫かしら……?」
レイナの言葉に、僕は頷く。
「きっと、ルーシーなら大丈夫な……はずだ」
ルーシーの左手がぴくりと動いたのは、ちょうどその時だった。
そしてルーシーはゆっくりと立ち上がった。
「ルーシー!」
僕は我慢出来なくなって、彼のもとへと向かい――彼を抱きしめた。
「良かった。ルーシーが無事で。もし失敗するようなことがあったら……、僕はメアリーに何といえばよかったか……!」
「心配をかけてしまったようだね」
ルーシーは僕から距離を置いて、僕を見つめる。
「けれど、何の心配もいらない。こうして、守護霊と解りあうことが出来た。さあ、急ごうじゃないか。メアリーを助けるために」
『どうやら、無事に試練を乗り越えたようですね』
ライトが僕とルーシーに語り掛けた。
それを聞いてルーシーは頷く。
『いい目をしていますね。それならば、彼女とともにこの村の人間も助けることが出来るでしょう』
「やはり、この村の人間も……」
ライトは頷くと、外へと僕たちを促した。
僕たちはそれに従って、外に出た。
「この村は守護霊使いが集まる村です。別に集まってきたわけではなくて、もともと守護霊使いがこの村を作ったからそういうことになったのですが、それは省きましょう。別に話す意味が無いからです。……それはさておき、あなたたちの探し物は、おそらくこの山の上にある神殿でしょう。そこに、いるはずですよ」
「神殿……。もしかして、そこにフィアノの人たちは!」
『ええ。何が理由でそうなっているのかは解りません。けれど、彼らがそこへ運ばれていったこともまた事実。ですから、もし可能なら……』
「許せない」
僕は、我慢できなかった。
何の罪のない人たちの命を、どうしてそんなに蹂躙出来る?
どうして罪のない人たちを、そう簡単に動かすことが出来る?
普通の精神で出来る話じゃない。
リュージュ。
祈祷師であり、スノーフォグの国王。
僕は彼女を、許せなかった。
「フル、待ってよ!」
ルーシーの言葉を聞いて、僕は我に返った。
どうやら僕はそのまま守護霊神の洞窟を抜け出し、神殿のある場所へと歩いていたようだった。
「君が怒る気持ちも解る。けれど、冷静にしていないとどうなるか解らないぞ。奇襲をかけられるかもしれない。それとも、バルト・イルファが面と向かって攻撃してくるかもしれない。いずれにせよ、僕たちが向かう場所は敵の本拠地だ。リーダーである君が冷静を欠いて、どうするつもりだい?」
それを聞いて、僕は少しだけ落ち着けようと、深呼吸した。
それを見たルーシーは笑みを浮かべて、
「落ち着いた?」
と優しく問いかけた。
僕は頷く。そして、改めてまた一歩神殿へと足を進めていった。




