第九十六話 守護霊使いの村①
チャール島の港町、フィアノ。
しかしその町は活気に溢れているはずにも関わらず、人の声が一切聞こえることがなかった。人が生きている様子が見られない、とでも言えばいいだろうか。
「…………」
その時だった。
微かにどこかから声が聞こえてきた。その声がどのようなことを話しているかどうかまでははっきりとしなかったが、何かを話している、それについてははっきりと解った。
「なあ、ルーシー。今、何か聞こえなかったか?」
一応、ルーシーにも確認。もしかしたら空耳の可能性もある。
ルーシーは首を傾げて、
「何か聞こえたか? ……生憎、僕には何も聞こえなかったようだけれど」
やはり、聞こえなかったか。となると空耳の可能性が高い。無理にこれ以上追及する必要も無いだろう。
そう結論付けて、僕はルーシーになんでもないと言うところだったが――、
「こっちに来てください……!」
再び聞こえたその言葉は、どうやらルーシーにも聞こえたようで、目を丸くしていた。
ルーシーは僕のほうを見て口をぱくぱくさせながら、
「……もしかして、フル、君が言った『何か聞こえる』って、これのことかい?」
こくり、と僕は頷き、
「うん。でもさっきはこれくらいはっきりと聞こえなかった。どこか遠くで誰かが話しているな、って感じしか解らなかったよ」
「そうか。……いや、いずれにせよ、あの声はどこから聞こえてきたんだ? この声はいったいどこから……」
「もしかして、あの洞窟からじゃないのか?」
そう言ったのはレイナだった。レイナが指さしたその先には――山にぽっかりと開いた洞窟だった。
「あの洞窟からか……。ちょっと気になるが、見に行ってみるか」
洞窟の中は鍾乳洞になっていた。水音が響く、幻想的な空間となっていた。
こんなところに人が居るのか? なんて思っていたが――そんなことは早計だった。
椅子に一人の女性が腰かけていた。
薄緑のドレスに身を包んだ女性だった。けれど、それがほんとうに人間であるかどうかは判別し難い。はっきり言って、今の見た目を考慮すればそれは人間とは思えない。
彼女はほのかに光り輝いていたからだった。
『……ようこそ、いらっしゃいました。ルーシー・アドバリー』
椅子に腰かけていた女性はルーシーの名前を呼んで、そう言った。
「ルーシー、知り合い?」
「いや、初めて出会ったけれど……」
ルーシーの言葉を聞いて、女性は椅子から立ち上がる。
『守護霊について、あなたはどれくらいご存知でしょうか?』
守護霊。
名前だけは聞いたことがあるけれど、それほど知識は無い。
ただ人と契約を交わし、契約者を守るために行動をする。ただそれだけしか聞いたことがない。
『……その様子だとあまりご存知ではないようですね。まあ、仕方ないことでしょう。この世界はどれくらい進んでいるかは解りませんが、錬金術や魔術に比べれば非常にマイナーな分野ですから。マリアが私と契約を結んだときでさえ、まだ興隆の余地が残されている……としか解っていませんでしたから』
「マリア……、もしかして、マリア・アドバリーのことか!?」
『ええ。ルーシー・アドバリー、あなたにとっての遠いご先祖ですからね。知らないはずが無いでしょう。神ガラムドに命じられました。予言の勇者に加護を与えるよう……。しかし、あなたはもうエルフの加護を得ている。ならば、次に加護を得るのは……』
そうして。
その女性はルーシーを指さした。
「……僕?」
『そう。あなたです。そもそも、私はもともとアドバリー家に仕える身としてマリア様に召喚されました。ですが、私はガラムドに守護霊神として命じられて、この地に住まうこととなった。この町は守護霊使いの村と呼ばれていますからね……』
「守護霊使いの村……」
僕は女性の言葉を反芻する。
それにしても、守護霊の神――か。人々はこの神を信仰していた、ということになるのだろうか。
『それでは、あなたに加護を与えましょうか。ルーシー・アドバリー。あ、そうでした。先ず、私の名前をお伝えしないといけませんね。私の名前はライトといいます。守護霊の神、ライトです。同じ守護霊を量産することで、この場から離れることが出来ないという問題を解決します。そうして、今から、』
ライトは右手を掲げた。
同時に、ルーシーの身体に何かが入り込んだように見えた。
「いったい、何を……?」
『文字通りのことですよ、予言の勇者。私はただやるべきことをしただけ。今、何が入ってきたかは見えたでしょう? あれは守護霊ですよ。守護霊を彼の体内に入れたのです。私は先程、加護を与えるといいましたが……その前には一つ「試練」があるのですよ』




