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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第九十五話 食の都と海の荒くれもの⑬

「舐めているのはお前のほうだよ、タイソン・アルバ」


 バルト・イルファは今までと口調が変わった――冷淡な口調でタイソン・アルバに言い放った。

 タイソン・アルバが驚いている様子を見せていると、バルト・イルファはそれに気付いて溜息を吐く。


「第一、僕が何を言っているか解っていない。もっと言うならば、なぜここにやってきたのか解っていない。タイソン・アルバ、お前は解っているつもりでその発言をしたのかもしれないが、リュージュ様はもともと人間の進化の可能性で僕たちを開発したんじゃない。いや、リュージュ様直々に開発したわけじゃないから、正確にはその命令をしただけではあるが。リュージュ様はもともと一つの結末に向けて、すべてそれのために物事を実行しているだけに過ぎない。僕たちを開発したり、メタモルフォーズの研究をしたり……」

「まさか……、そんな、まさか! そんなはずがあり得ない! リュージュが、もともと、人間の進化の可能性を考えずに……。では、もともとその得体のしれない計画を実行していた、ということなのか!?」


 こくり、とバルト・イルファは頷いた。

 それを聞いて、タイソン・アルバは信じられなかった。それは即ち、自分の研究がずっと裏切られていた――ということなのだから。

 バルト・イルファの話は続く。


「リュージュ様は誰にもその計画を話したことはない。だが、僕たちの研究はもっと大きな計画によって実行されていたことは、僕たち自らが調べ上げて知ったよ。まあ、だからといって何も変わらない。リュージュ様に対する忠誠は変わることがない、ということさ」

「リュージュへの忠誠……。違う、それはきっと、プログラミングされたものに過ぎない! リュージュは自らの臣下に置くメタモルフォーズを開発する際、彼女の命令を聞くように、彼女の忠誠心を常に持つように思考をプログラミングしろ、というのがあった。だから、それによって……」


 バルト・イルファはもう話を聞くのが面倒になったのか、頭を掻いた。

 そうして、深い溜息を吐いて、バルト・イルファは言った。


「あんた、いろいろと煩いよ?」


 バルト・イルファは右手に炎を作り上げた。ノーモーションで生み出す魔術は、彼自身が魔術の仕組みを理解していることと、それについての代償が存在していないと不可能だ。しかし、それが実行できているということは……、その二つが成し遂げられているということを意味していた。

 それを見たタイソン・アルバは、もう逃げられないと悟った。

 だからこそ、彼は言った。


「……こうやって邪魔者を消していく、というわけか。差し詰め、お前はリュージュにとっての邪魔者を消す暗殺部隊ということになる……わけか」

「何が言いたいのですか? 哀れみ? 憐み? それとも、悲しみ? もしその感情を抱いているのならば、無視していただいて構いませんよ。あなたにとって、それは関係のないことですし、そもそもあなたはその対象に殺されようとしているのですから」

「バルト・イルファ……!」

「一応、リュージュ様に言われていたので、最後に確認しておきましょうか」


 バルト・イルファは右手に火球を構えたまま、タイソン・アルバに訊ねた。


「もし今、ここで『戻る』と言ってくれればあなたの命は保証しましょう。後ろにいる、正確に言えばこの船に乗っている研究員の方々の命ももちろん保証します。しかし、ノーというのであれば……」

「存在価値があるから、殺すのが惜しいということか。リュージュも切羽詰まっている、ということだな」


 バルト・イルファは何も言わなかった。


「……図星か。ならば、答えは最初から決まっているよ」


 タイソン・アルバは目を瞑り頷くと、バルト・イルファに向き直った。


「私はもうあの場所には戻らない。人間を危険に晒すような研究をわざわざやりに戻るほど、私も馬鹿な人間じゃない」


 バルト・イルファはどこか遠くを見つめたような表情をして、頷く。


「……そうですか。それは非常に残念です。タイソンさんは非常に優秀な研究者であることから、戻る意思があるのならば丁重に扱うようリュージュ様からも言われていましたから……」


 そうして。

 バルト・イルファの持っていた火球が徐々にその大きさを増していく。

 バルト・イルファの顔から、笑顔が消えて――彼は言った。


「ならば、あなたの逃亡生活もこれで終わりです。タイソン・アルバ。あなたがずっと過ごしてきたこの船と、あなたを信じてついてきた研究員とともに海の藻屑と消えなさい」


 直後。

 タイソン・アルバの乗っていた海賊船は、火球により真っ二つに分断された。



 ◇◇◇



 チャール島に到着したのは夕方だった。スノーフォグ本土、ハイダルク島と比べると非常に小さい島であり、海岸線及び港の周りに建造物があることから、そこが島の中心なのだろう。

 港にある橋に船を停泊させ、碇を下す。


「着いた。ここが……チャール島だ……!」


 僕はそう言って、チャール島の大地に足を踏み入れた。

 ルーシー、レイナ、シュルツさん、それぞれ荷物を持って同じように大地に降り立つ。


「それにしてもとても小さい町だね……。もしかして、ここがチャール島の中心街なのかな」


 ルーシーの問いに、僕は答えることはできなかった。

 それよりも町に広がる異様な気配が、とても気になっていた。

 夕方なら、町に活気があってもおかしくない。それどころか、民家に明かりが灯っていない。


「どうして、人気が全く無いんだ……?」


 チャール島の港町、フィアノにはただ風の吹く音だけが空しく聞こえるだけだった。


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