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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第九十一話 食の都と海の荒くれもの⑨

「ん? その様子だと、もうリュージュから私の話を聞いている、ということになるな。結構、結構。できることならそちらのほうが大変有り難かった。一度初めから話をするのは非常に面倒だからな」

「……あなたは、いったい何者なんですか。確か、知恵の木の実を作り出すものを生み出した、と……」

「正確に言えば、そいつは間違っている。私はいろいろなものを研究し、そして実際に生み出した。しかしながら、それは大いなるリュージュ様のためを思って、そして、世界のために作り出したものに過ぎない。あのころの私は……はっきり言っておかしかった。風変りだった、といってもいい。けれども、私は研究が楽しかった。大好きだった。それを、あの女に付け込まれたといってもいいだろうな……」


 そう言って。

 タイソン・アルバはゆっくりとこちらの船に乗り込んできた。

 僕たちはタイソン・アルバが何を仕出かすのか解らず、戦闘態勢を取った。

 それは相手も同じだった。タイソン・アルバ以外の乗組員も皆、同じように戦闘態勢に入る。

 しかし、タイソン・アルバだけが冷静に、それでいて普通に、踊るように歩いていた。


「……何を考えている? タイソン・アルバ。僕はあなたのことは知らない。知らないからこそ、訳が分からない。一体全体、あなたは何を……」

「私から言わせてみれば、君たちのほうがおかしい考えを持っている、ということになるよ。予言の勇者一行、とでも言えばいいかな?」

「……それをどうして?」

「知らないわけがない。リュージュはずっとそれを望んでいた。ずっと、予言の勇者がこの世界にやってくることを欲していた」

「……つまり、リュージュはずっと」

「ああ、知っていたとも。知っていたからこそ、計画を実行に移すことを考えていた」


 徐々に、タイソン・アルバが恐ろしくなってきた。

 いや、実際には予言の勇者――つまり、ぼくのことだけれど――を何らかの計画に組み込もうと考えていたリュージュが恐ろしいのだが、それ以上に、タイソン・アルバが恐ろしい。どうして彼はそこまで事実を知っているのか、ということに驚いている。そこまでぺらぺらと語られてしまうと、ほんとうに彼の言っている言葉は正しい言葉なのかどうか解らなくなってしまう。


「タイソン・アルバ。あなたはいったい、何を知っている? そして、何をしようとしている?」

「私は何もしようとは思っていないさ。……ああ、いや、それは間違いだったね。正確に言えば、私は間違いを正そうとしている。ただ、そのためには力が必要だよ。だからこそ、それは間違いだったと思っている、その自分を正すことと等しい。私はいったい何をしていたのか、気づくまでにあまりにも時間がかかりすぎた」

「それは……」

「リュージュに従って行った研究は、最終的に人間を滅ぼす悪魔の研究だった、ということだ」


 その言葉は、端的であったが全てを表していた。

 リュージュが求めていたもの――その意味が漸く解ってきた。

 タイソン・アルバの話は続く。


「……正確に言えば、ずっと私の研究は私のメリットがあるものしかしてこなかった。それは当然だ。それが研究者たる所以と言っても過言ではない。けれど、あの研究を始めたとき……私はもう、あの女王にはついていけないと思った。知恵の木の実は、この惑星の長い記憶をエネルギーにすることで、それを錬金術の素材としている。そして、それを人工的に作るとすれば、……はてさて、何が必要だったと思う?」

「まさか……!」


 ルーシーの言葉に、タイソン・アルバは大きく頷いた。


「そこの君はもう解っているようだね。……そうだ、知恵の木の実は記憶エネルギー。つまりその記憶エネルギーを濃縮させたものが知恵の木の実。……人間の記憶エネルギー一人分ならばたいしたエネルギーではないかもしれないが、それが何十人と集まれば、どうなるか? あっという間に知恵の木の実の完成だ」

「人を殺した、というのか?!」


 僕は思わずタイソン・アルバを睨み付けていた。けれど、そうなるのも当然だ。つまり、私利私欲のためにタイソン・アルバはたくさんの人間を犠牲にしたのだから。

 タイソン・アルバは憂う目で僕たちを見つめた。


「……そう言う気持ちも解る。だが、激高せずに最後まで聞いてほしい。私は確かにそれを望んだかもしれない。だが、それを作り出していくうちに、私は何をしているのか……解らなくなってきた。老人も、少年も、青年も、子供も……私は容赦なく彼らの記憶を知恵の木の実という器に満たしていった。それによって、私の精神は……壊れた。そう、壊れてしまった」

「それで――リュージュから逃げた、ということか?」


 こくり。タイソン・アルバはそうしっかりと頷いた。


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