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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第八十六話 食の都と海の荒くれもの④

「……そうか、それほど強い魔術師がアドハムとともに、少しの間であったとしても行動していたとは。そしてアドハムの勢力は何らかの理由でその魔術師の勢力と意見の相違があったのだろう。そうして倒されてしまった。力こそすべてだ。言葉がうまく通じなかったら、力の強い弱いですべてが決まってしまう。ほんとうに、ひどく残念な世界だよ。今の世界は」


 リュージュは溜息を吐き、肘あてに肘をつく。

 そして僕たちを舐めるように見つめると、大きく頷いた。


「それにしても、魔術師に狙われるほど、お前たちは何か喧嘩を買ったということ……ではないだろうな。いずれにせよ、『予言の勇者』というレッテルが君たちの運命をそうさせているのだろう。レッテルを張られた人間というのも滑稽で可哀想な存在だ。……っと、当事者の前で言う話ではないかもしれないが」

「?」


 リュージュの発言はもうどこかに飛んで行ったような感覚だった。

 正確に言えば、独り言。

 もっと言えば、虚言。

 ……さすがにそこまで行くのは言い過ぎかもしれないが、いずれにせよ、そういう判断に至る可能性があるほど、リュージュは周りの人間を放っている発言しかしていなかった。まるでフルフェイスのヘルメットを被って綱渡りをしているように。

 実に危険。

 実に奇妙。

 それほどにリュージュの発言はどこか的外れで、見当違いで、不明瞭だった。


「……とにかく、これ以上の発言を君たちから得られることは出来ないだろう」


 リュージュの発言は僕たちに対する諦観よりも、自分自身の考えの掘り下げがうまくいかないことへの気持ちを表しているようだった。

 リュージュは隣の兵士に指示を仰ぎ、


「いずれにせよ、予言の勇者ご一行はひどく疲れているようだ。もうここの宿は決めたかね? 決めていないのであればこの城の宿舎を使用するがいい。生憎、設備こそ古いものではあるが浴場もある。食堂もある。それに……私も一つ君たちにある依頼をしたい。そのためにも、先ずはそれくらいの前払いをしたいというものだ」

「前……払い?」

「知恵の木の実について、どれくらい知っている?」


 知恵の木の実。

 リュージュの発言は簡単なことだった。

 知識の説明を、明示。

 正確に言えば、どこまでその単語について知っているか、知識量の提示。

 いずれにせよ慎重に解答する必要がある質問であることには何ら変わりなかった。


「……知恵の木の実は代償無しで錬金術を行使することのできる夢のアイテムだ。正確に言えば、知恵の木の実はその名前の通り、この星の知識が詰め込まれている。いや、この場合は知識というよりも記憶といったほうがいいべきか。いずれにせよ、そのエネルギーは莫大なエネルギーだ。だからこそ知恵の木の実は伝説のアイテムとして知られていて、それを欲している錬金術師も少なくない」


 僕がどう答えるか考えているうちに、リュージュが先にそう答えた。はっきり言ってまさか先に言われるとは思っていなかったのだが、しかし言われてしまったものは仕方が無い。

 リュージュの話は続く。


「だが、その伝説のアイテムをいとも簡単に開発することの出来る物。それが開発されたとしたら?」


 それを聞いて、僕たちは目を丸くした。

 伝説のアイテム――知恵の木の実の錬成。それが簡単にできるアイテムが開発された?

 もしそれを使って知恵の木の実を量産されてしまったら……正直、考えるだけでも恐ろしい。というより、なぜそのようなアイテムを開発したのか――という点が気になるところではあるけれど。


「もともと、わが国の軍事技術の転用のために開発されたそのアイテムだが、もう平和になってしまったからな。使わずに設計図は放置されていたのだよ。……だが、それをあいつが奪った。そのアイテムの開発者であるタイソン・アルバが、な」

「タイソン・アルバ……」


 僕はリュージュから聞いたその名前を反芻する。

 リュージュはそれを聞いてこくりと頷くと、ある書状を差し出した。


「今日はもう遅いから……明日、正式にこれを通知することになるが、いまドックには完成したばかりの船が数多く並んでいる。その中でも最新の船を君たちに与えよう。これは、それが記載された書状だ。これをドックの人間に見せればすぐにそれを渡してもらうことができるはずだ」


 それって……!

 つまり、願ったりかなったりじゃないか!

 僕たちにとってみれば、メアリーを助けるためにも船が欲しかったところだ。

 その船を、しかも無料で、最新のモノが手に入る!

 僕は勝手に心の中でうれしく小躍りしていた。


「……ただし、条件をつける。その船の書状を渡すのは……タイソン・アルバという科学者を探してここに連れてくる。それが条件だ。ああ、もちろん、タイソン・アルバは海の向こうに逃げたという可能性も考えられるから、そのために船を与えると思ってもらえばいい。もちろん、タイソン・アルバを捕まえたあとも返してもらう必要はない。それは君たちの船になるわけだからな」


 そこまで言って、リュージュは立ち上がる。


「……さあ、ここで改めて質問しようか? タイソン・アルバを捕まえてくれるかな。もちろん、拒否してもらうことだってかまわない。君たちは予言の勇者と呼ばれている存在。その第一目標は世界を救うことなのだから」


 僕たちに、選択肢なんて無かった。

 リュージュは犯罪者を捕まえてほしい。

 僕たちはメアリーを助けるためにも船がほしい。

 双方の目的が、これまで以上に合致している。

 そうして、僕たちは――その言葉にしっかりと頷いた。


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