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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第八十四話 食の都と海の荒くれもの②

 ドックは当然のことながら、海の近くに存在する。


「ドックなんて来たことないけれど、こんな活気のある場所なんだね……」


 ルーシーはきょろきょろと周りを見渡しながら、そう言った。

 はっきり言ってそういう行為は目立ってしまうのでできればやめてほしかったのだけれど、今の彼にきっとそんなことを言っても無駄なのだろう。


「おう。どうした、こんなところに子供がいるなんて。ここは子供がうろつく場所じゃないぞ?」


 そう言ってやってきたのは筋骨隆々のタンクトップを着た男性だった。何かの資材を運搬しているようで、汗をかいていた。

 男性の話は続く。


「……まさかとは思うが、船が欲しいのか? だったらここじゃなくて、販売所に言ったほうがいいぞ。ここはあくまでもドックだ。ドックの意味を理解しているか? ドックは船を開発・建造する場所。対して販売所は名前の通り船を販売する場所だ。船は開発しない限り、販売することは出来ないがドックで船の販売は出来ない。建前上、別々にしておく必要があるというわけだからな」


 ぶっきらぼうに見えるけれど、案外丁寧に教えてくれるんだな。

 僕はそう思って男性の話を聞いた後、男性にお礼を言って、販売所のほうへと向かうことにした。




 販売所はそう遠くない距離にあった。正確に言えばドックの内部、その中心部にあった。

 中に入ると恭しい笑みを浮かべて髭面の男がさっそく声をかけてきた。


「おやおや、いらっしゃいませ。若いのに、船を買いに来た。そういう感じでございましょうか? それにしても、最近の若者はかなり堅実ですねえ。ちょいと驚いちゃいましたよ。おっと、これはオフレコでお願いいたしますね。……はてさて、どのような船をお望みですか?」


 早口でまくし立てるように話をする男は、いつもこのように話をするのだろう。先手必勝を地で行くとはまさにこのことだと思う。


「……いや、とりあえず少し船を見に来ただけです。欲しいことは欲しいのですけれど」

「さようでございますか。それではごゆるりと。何か用事がございましたらまた私に言ってください。それでは、以上よろしくお願いします」


 そう言って男はカウンターの向こうへと姿を消した。まあ、いつもずっとついてくるよりかはマシかな。こういう店員は最初だけ簡単に対応しておけば問題ないだけのこと。

 はてさて。

 問題はここからだ。

 僕たちが乗ることのできる船を、如何にして調達するかということについて。

 当然、非合法的手段はあまりよろしくない。ラドーム学院の生徒、という称号がある以上それを後ろ盾に悪さをすることは無理だ。というか不可能と言って過言でない。

 だったらどうすればいいか。

 一番まっとうな手段で挑むならば、船を購入するに尽きる。けれど、船を購入するといっても――。


「……やっぱり、それなりにするね」


 販売所には実際に船が置かれているわけではない。船の写真と値札が置かれており、店員にその船を指定して見せてもらうことが出来る仕組みになっているらしい。どうして知っているかというとショーウインドーにそう書かれた紙が置かれているからだった。

 船の値段の相場が実際にどれくらいになるのかは定かではないが、並んでいる商品はすべて僕たちがもっている全財産をはるかに上回るものだった。仮にハイダルク王からもらった路銀を一切消費せずにここまでやってきたとしても、あまりに足りない。


「やっぱり購入するのは無理か……」


 僕は店員に聞こえない程度のボリュームでそう呟いた。


「いらっしゃいませ。……おや、どうなさいましたか?」


 カウンターのほうから声が聞こえて、僕たちはそこでまたお客さんがやってきたのだと理解した。それにしても船を買うなんて安い買い物では無いと思うのだけれど、よくお客さんがやってくるのだと思った。もしかして金持ちはシーズンで買い替えることもあるのだろうか? それこそ、衣服か何かのように。


「はあ。……わかりました。別にあなたたちに逆らうつもりなんてありませんよ。誰を求めているのか、お上の意向はさっぱり理解できませんが、とにかくお探しください」


 カウンターの店員のトーンがすっかり下がっているのに、少しだけ時間を要した。

 いったいどうしたのだろうか。そう思って僕は踵を返して――。


「フル・ヤタクミだな?」


 そこに立っていたのは兵士だった。冷たい目をしていた。

 兵士はこちらに目線を向けたまま、言った。


「国王陛下がお呼びだ。何を目的としているのかさっぱり解らないが……とにかく、予言の勇者を一目見たいと仰っている。このまま王城に来てもらうことになるが、構わないな?」

「……解りました」


 その言葉に、ノーとは言えなかった。



 ◇◇◇



 高台に位置するヤンバイト城までは、ハイダルクと同じように馬車を利用した。ちなみにシュルツさんの竜馬車はこの町にやってきて早々に確保していた宿で留守番をしている。珍しい馬車であることには変わりないが、『操縦するのは僕だけしか出来ないから、盗まれることは先ずあり得ない』と言っていたので問題ないのだろう。たぶん。

 兵士は馬に乗ったままこちらに会話を投げかけることは無かった。馬車の中では僕たちがただ静かに目的地に着くのを待つだけだった。

 会話が生まれない時間は、はっきり言って不毛だった。けれど、皆緊張していたのだと思う。ハイダルクではない別の国のトップに謁見する。しかもこちらから申し込みなどしたのではなく、先方からの要望だというのならば猶更。

 高台にある雪の城。

 それは見るものを圧倒させる、荘厳な雰囲気を放っていた。

 ヤンバイト城を見たとき、僕はファーストインプレッションとしてそう感じ取った。


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