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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第一章 異世界召喚編
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第七話 不穏な気配①


「不穏な気配……ですって?」


 僕はそれを聞いて、いったい何を言っているのか解らなかった。正確に言えば、解りたくなかったのかもしれない。

 だってそうだろう? その村長の発言が正しければ、その発言を一から十まで信じるならば――。


「それってつまり、私たちの中に裏切り者が居るということですか……?」

「まあ、君たちは学生同士だ。それも、あまり経験も深くないのだろう。だから、実際には裏切り者というよりも、別の目的があって行動していると言ったほうが正しいかもしれませんね」

「それは……」


 やっぱり、聞き直しても、どういうことなのか解らなかった。

 解りたくなかった、の間違いかもしれない。

 だって、考えてみればわかる話。いままで行動してきた人の誰か一人が、敵だというのだから。


「でも、村長さん。その話を聞くと……もう、その気配を発している人が誰であるか解っているような言葉になりますけれど」


 メアリーの言葉を聞いて村長は頷く。


「どうやらそこのお嬢さんは利口なようじゃな。うむ、まさにその通り。私には人の気配を読む力がある。祓術師だった祖先の名残、ともいえるかもしれないが、実際問題、それは使い物にはならなかった。せいぜい、息をひそめる動物を探すくらいだったからのう。だから、ここまで使い物になる機会が訪れるとは、全然想像もしていなかったよ」

「……」


 ルイスさんを見ると、ずっと俯いていた。眠っている――ようには見えない。いったいどうかしたのだろうか? そう思って近づこうとしたが――。


「近づいては、なりませんぞ!!」


 村長の大声を聞いて、思わず静止してしまった。


「……いったい、どういうことですか?」

「ばれているのならば、仕方あるまい」


 ルイスさんはそう言って、ゆっくりと立ち上がる。


「もう無駄だぞ。たとえ何をしようとしているのか解らなくとも、その邪悪な気配を隠し通すことは出来ない」

「もともと隠すつもりなど無かったさ……。どこかのタイミングで、目的を達成させてしまおうと思っていた」


 ふらり、ふらり。

 身体を揺らしながら、なおルイスさんは俯いている。

 もう彼は、つい先ほどまでの模範的な優等生、ルイス・ディスコードでは無くなっていた。


「予言の勇者と神の一族……そいつらを殺すために、うまいところまで運ぼうと思っていたのに、よ。時間のかからないように、事故に見せかけたほうが一番だと思っていたのに。まったく、すべてぶち壊しやがって。もう許せねえ、もう許してたまるかよ……!」


 ルイスさんの背中から、何かが出現する。

 それは、黒い翼だった。

 ルイスさん自身を隠す、巨大で、黒い翼。それは闇の象徴であり、ルイスさんが人間ではない――別の何かであることを示すには、充分すぎる証拠だった。


「本性を現したか、それがもともとのあなた……。メタモルフォーズ……いや、この場合は、合成獣(キメラ)……?」


 フッ、と鼻で笑うルイス。

 ルイスの顔もまた、翼の現出に伴い変化していた。頬骨が出て、痩せこけている。全体的に顔を縦に伸ばした――とでもいえば伝わるだろうか。そういう感じだ。


「ああ、そうだよ。合成獣さ! 残念ながら、僕たちは合成獣がこれ以上のレベルのものがたくさんいるけれどねえ!! 合成獣を見て驚いただろう? 恐れ戦いただろう?」


 合成獣。

 もちろんそんな名前はゲームや小説の中でしか聞いたことのない代物だった。

 それが今、目の前に立っている。

 目の前に立って、僕たちを殺そうとしている。

 ルイスは一瞥して、頷く。


「……やはり、これ以上時間をかける必要は無いね。神の一族も予言の勇者も力を持っていない。ならば、今のうちに――倒しておくべきだ!!」


 翼を広げて、ルイスは走る。

 目的地は、僕のいる場所。

 ルイスの腕の先端を、針のように尖らせて。

 危機が迫っているにも関わらず、僕はすぐに行動に示すことができなかった。

 メアリーとルーシーも動けない。村長も、あまりに一瞬の行動で動くまでの時間が釣り合わない。

 僕が動かなきゃ――僕が逃げなくちゃ!

 そう思っている間にも、ルイスの腕が迫る――。


(もう……逃げられない!)


 目を瞑り、僕はその瞬間を待つしかなかった――。

 ――のだが。


「……あれ?」


 いつまで経っても、それがやってくることは無かった。

 恐る恐る目を開けると、そこには、うっすらと緑色の壁が出来ていた。

 そしてその壁に、ルイスの腕が突き刺さっていた。


「これは……!」

「何とか、間に合ったようね。みんな」


 そして僕の目の前には、ある女性が立っていた。

 それは僕もメアリーも、もちろんルーシーも知っている――ある人物だった。


「サリー……先生?」


 そう。

 サリー先生が、僕の目の前に立って、バリアを張っていた。


「サリー……サリー・クリプトン! どうして、どうしてお前がトライヤムチェン族の集落に居る! ここから学院までは半日もかかるはず! そう簡単に向かうことなんて……」


 ルイスは腕を抜いて、


「いや、それよりも……。どうして、僕のことが合成獣だと解った?」

「校長が、私に伝えてくれたのよ。あなたのことを、ね……」


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