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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第七十七話 決戦、エノシアスタ⑤

「エノシアスタを滅ぼす……だって? そんなこと、許されるとでも!? できるわけがないだろう! 人間を、人間が殺すなんて!」

「別に人間が人間を殺してはいけないという理由は無い。その意味が解るかね? そもそも、なぜ人間は人間を殺すな、と言っているのか。それは簡単だ。人々が混乱してしまうから。では、混乱しなければいいのではないか? 正確に言えば、混乱すること以上に人間の危機が訪れているとすれば……人間を殺すことも厭わない。そうは思わないか?」

「それは……言いがかりだ! 言い訳に過ぎない。そんなこと、ゆるされるはずが……!」

「まあ、いい。所詮、予言の勇者とはいえ、ただの子供だったということだ」


 そう言ってアドハムは右手を挙げた。

 同時に僕たちは兵士に身体を強く引っ張られる。

 面会の時間は終了した――ということだろうか。

 いや、でも、まだ終わっちゃいない。

 まだ話し足りない。

 まだ話していないことが、たくさんある。


「アドハム、まだ話すことが――」

「連れていけ」


 アドハムはその一言しかいうことはなかった。

 そして僕たちはそのまま、兵士に引きずられる形で部屋を後にするのだった。



 ◇◇◇



 牢屋に戻って、僕たちは作戦会議をすることとなった。なぜそう簡単に堂々と出来るかというと、兵士はそう扉から近いところに立っているわけではないためだ。そうではあるが、それでも声は聞こえる可能性があるためトーンを落として、ということにはなるのだけれど。


「……これからどうする?」


 ルーシーの問いに僕は首を傾げるしかなかった。

 今僕たちがどこにいるのか。ここからどう脱出すればいいか。逃げることができたとしてもそのあとも追っ手を撒くことは出来るのか。問題は山積みだった。


「……とはいえ、だ。問題は山積みだとはいえ」

「ルーシー、何か言いたいようだね?」

「フル。お前は気にしていないのか、メアリーのことを。もう一週間近く……メアリーは敵につかまっているんだぞ。その間、彼女がどうなっているのか、俺達には一切解らない。それでも全然気にしていないというのか?」

「気にしていないわけがないだろう。でも、今はどうにかしてここから脱出しないといけない。メアリーのことよりも重大だ。そうじゃないか?」

「そうかもしれないが……。ほんとうにお前、そう思っているのか?」

「……というと?」

「というと、じゃないよ。何か最近のお前は……」

「ちょ、ちょっと待って! 今はそう争っている場合ではないでしょう? とにかく今は……」


 それを聞いて、僕とルーシーはお互いレイナの顔を見つめた。

 そして暫し考えて、僕たちは向かい合って頷く。


「……そうだな。レイナの言うとおりだ。ここで争っている場合じゃない。今はメアリーを探さないといけない。そしてそのためにはここを脱出する必要がある。そうだろう?」

「そうだ。そのためにもまずは三人が協力しないと……」


 そう僕たちが団結した、その瞬間。

 ゴゴンッ!! と地面が大きく揺れた。


「何だ!?」


 牢屋にある唯一の窓から外を眺めようとして――ああ、そうだった。この窓は僕たちの伸長では到底届くことのない高さだった。肩車をすれば何とか届くかもしれないが……。

 しかし、そんなことをする必要もなく、徐々に緊迫した空気が外から伝わってきた。


「何事だ!」

「はっ。メタモルフォーズが襲撃してきました! そしてその上には、バルト・イルファが居るものかと……」

「バルト・イルファだと!? ……まさか、リュージュめ。我々を本格的に捨てに来たというのか! というか、いつ作戦があちらに判明してしまった?!」

「……それは解らない。それよりも大佐が緊急招集をかけている。急いで部屋へ向かうぞ!」


 そして、扉のすぐそばにいた兵士はどこかへ消えていった。

 これはチャンスだ。これをうまく使えば脱出することができるはず。


「でも、どうやって?」


 レイナからの質問。

 そしてそれはルーシーも僕も、思っていることだった。

 どうやってここから出るか。その答えが出ていないのに、出ることが簡単に可能になるわけがない。

 しかし、動きは以外にも外からあった。

 ガチャリ、と扉が開く音がしたからだ。


「……誰だ?」


 僕たちは咄嗟に戦闘態勢を取り、その人間が出てくるのを待った。

 数瞬の時を置いて、入り口から誰かが入ってきた。


「……いやあ、君たちが居なくなったときは驚いたよ。報酬踏み倒されるかと思った。だが、怪しい人間に捕まった、と聞いてね。これは居ても立っても居られなくなってしまった、というわけだよ。……それにしても、今は外も煩くなってしまっている。何が起きているか、説明しようか?」


 そう言って入ってきたのは、シュルツさんだった。

 シュルツさんは見た感じ武器を持っていないようだったが、どうやってここまで来たのだろうか――?

 そんな疑問を思わず考えてしまうけれど、それはいったん置いたほうがいいだろう。


「説明は……ある程度は把握しています。メタモルフォーズがここに襲撃してきているのでしょう?」

「ああ、その通りだ。だが、どうやらそれがもともと敵と同じ勢力だったようでね……。仲間割れをしているようなんだ。だから、逃げるなら今のうちだ」


 成る程。

 確かにここで時間を潰している場合じゃない。

 そう思った僕たちは互いに頷くと、そのまま牢屋を後にするのだった。


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