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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第七十二話 シュラス錬金術研究所㉕

 僕たちが外に出た、ちょうどのタイミングで研究施設の入り口が崩落していった。


「……間一髪、だったのか……?」


 ルーシーの言葉に、僕は頷く。

 まさかここまでギリギリだとは思いもしなかった。正直な話、もう少し余裕があるものかと思っていたからだ。

 それにしても、この建物が破壊されてしまったということは――。


「また、メアリーの情報が手に入らなくなった、ということか……」


 そう考えると、とても頭が痛い。ようやくメアリーについての手がかりを見つけ、おそらく捕まっているであろう場所まで到着した――にも関わらず、


「どうやら、敵のほうが一歩先を進んでいた、ということになるのだろうね……。かといって、メアリーはいったいどこへ行ったのだろう? まさかこの瓦礫の中に――」

「ルーシー!」


 僕はルーシーの言葉を聞きたくなかった。

 その可能性だって、十分に考えられる話ではあるけれど。

 今はできる限り、考えたくなかった。


「フル、ルーシー! ……ちょっと、こっちに来て!」


 声を聴いて、僕たちはそちらへと向かった。

 僕とルーシーを呼んだのはレイナだった。レイナは瓦礫の中に何かを見つけたらしく、それで僕とルーシーを呼びつけたようだった。

 レイナが見つけたのは杖だった。その杖は林檎のデザインがされており、僕もルーシーもよく見たことのある杖だった。


「これは、メアリーが持っていた……!」


 そう。

 メアリーが持っていた、シルフェの杖だった。

 それがそこにあったということは、メアリーがここにいた証拠になる。

 けれど、


「でも、メアリーがどこかに行ったという証拠にはならない」


 ルーシーの言葉は的確だった。

 確かにその通りであったし、逆にメアリーがここに埋まっているのではないか? という最悪の答えを考える可能性もあった。


「メアリー・ホープキンは生きているよ。君たちの想像通りね」


 声が聞こえた。

 それは、僕もルーシーもレイナも、聞いたことのあるやつの声だった。


「バルト・イルファ……!」


 頭上には、バルト・イルファが浮かんでいた。いったいどのような魔術を行使したのか、僕には解らなかったけれど、そんなことよりもどうしてバルト・イルファがそれを僕たちに伝えたのか――それが妙に気になった。

 バルト・イルファは僕を見つめて、言った。


「どうやら君たちは気になっているようだね。どうして僕がメアリー・ホープキンの居場所を知っているのか。そして、それをなぜ教える必要があるのか。確かにそう考えるのは当然かもしれない。けれど、それは君たちに絶望を与えるためだといってもいいだろう。君たちにはもっと苦しんでもらいたいからね」

「貴様……! バルト・イルファ、お前だけは、絶対に許さない!」


 僕はバルト・イルファを睨み付けて、そう言った。

 けれど空を飛ぶ敵に対しての攻撃手段を僕は持ち合わせていなかった。


「……まあ、せいぜい頑張るがいいさ。そうだね、ここまでやってきた君たちにはリワードを与える必要があるだろう」


 指をはじいたバルト・イルファは踵を返して、最後にこう締めくくった。


「メアリー・ホープキンは邪教の教会にいるよ。そこがどこにあるかどうかは、まあいう必要も無いだろう。そこまで言うとヒントではなくなって、それはもはや解答を示すことになってしまうからね。だから、そこは自分で考えたまえ。寒い場所だから、急がないと凍えてしまうかもしれないよ?」


 そうしてバルト・イルファは、今度こそ姿を消した。



◇◇◇



 帰り道。

 僕たちは行きと同じように竜馬車に乗り込んでいた。

 では、操縦者はだれか?


「……まさか、シュルツさんが生きているなんて思いもしなかったですよ」


 僕はその思ったままのことを、口にした。


「確かにね。まさか、メタモルフォーズの足に踏みつぶされたと思わせておいて、ただ隠れていただけなんて」


 シュルツさんが竜馬車でコーヒーブレイクをしていたのを発見した時は、驚きというよりも呆れてしまったと言ったほうが正しかった。

 なぜ僕たちにも嘘を吐いていたのか――まずそこが理解できなかったし、なぜそんなことをしていたのか、とても気になった。

 しかしシュルツさん曰く、


「別にそれについて言う必要もないだろう? ……あと、敵をだますなら味方から、というくらいだし」


 現に岩山の陰にはメタモルフォーズの死体が倒れていた。

 どうやら研究施設の入り口にカメラがあることを見破ったシュルツさんは、敢えて一回自分が死んだように見せかけて、カメラの死角となっている場所でメタモルフォーズを倒したのだという。いったいなぜカメラの死角が解ったのか――それについては、あまり教えてくれなかったけれど。


「取り敢えず、次の目的地は決まったのかい?」


 最後に、シュルツさんは、言った。

 その言葉に僕たちは大きく頷いた。

 そして僕たちは次の目的地へと向かう。

 そのためには一度、エノシアスタへと戻る必要があったわけだけれど。



 ◇◇◇



「シュラス錬金術研究所が、崩壊しただと?」


 スノーフォグ国軍大佐であるアドハムは部下からの報告を受けて、目を丸くしていた。

 シュラス錬金術研究所を任せたはいいものの、まさかこうも簡単に破壊されるとは思いもしなかったからだ。


「それもこれも、ついこの間やってきたあのキメラのせいだ……!」


 キメラ。

 正確にはそうではないのだが、いずれにせよ彼にとってあまり理解していない分野のことだからそう説明するほうが正しいかもしれない。そのキメラはスノーフォグの王自らがそこへ向かわせたため、アドハムもそのキメラに従わざるを得なかった。


「まさかそこまで出し抜かれるとは思わなかった……」

「いかがなさいますか?」


 部下の言葉に、アドハムは頷く。


「我々は我々で進めるしか無いということだよ」


 窓から外を眺め、


「予言の勇者の抹殺。我々の計画はプランエーから、プランビーへ移行する。ほかの人間にもそう伝えておけ」


 傅いた部下はそのまま部屋を後にした。

 アドハムの思惑、そのやり取りは彼とその部下を除けば、空から眺める月くらいしか解らないことであった。


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