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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第六十九話 シュラス錬金術研究所㉒

 そうして、ドクターと呼ばれた男は僕たちに向かってこう言い放った。


「さあ、このメタモルフォーズに勝てるかな?」


 ドクターがそう言った刹那、メタモルフォーズは動き始める。どうやら僕たちを明確な敵と認識しているらしい。厄介なことだった。せめてその研究者も敵と認知していればよかったのだけれど、分別は良かったほうだった。


「感心している場合じゃないぞ、フル。どうするんだ、これから!!」


 問題は山積みだった。

 メタモルフォーズに追われている状況をどうにかしなくちゃいけない。

 しかも今はメアリーが居ない……。つまり、僕とルーシー、それにレイナで何とかあのメタモルフォーズを退けないといけないわけだ。


「何を勘違いしているか知らないが……、このメタモルフォーズはただのメタモルフォーズではない! 行け!」


 そう言った直後、メタモルフォーズは通路を覆い隠すほどの水を放出した。

 ドクターは別の通路に逃げてしまったためか水を浴びることはなく、そのまま僕たちはメタモルフォーズから放たれた水をもろにかぶってしまった。

 水は若干粘度があったが、無臭だった。簡単に言えば、砂糖水のような感じだった。


「げほっ、ごほっ……。いったいこれは何だっていうんだ……!」


 そしてそれを見計らったかのように、ドクターは笑みを浮かべ、


「管理者権限で以下の命令を実行する! 命令コード001、対象はお前の水を被った三名!」


 そう叫んだ。

 ドクターの言葉を聞いて、それに反応するかのようにメタモルフォーズの頭部にあった赤い球体が光りだす。


「貴様、いったい何をした!」

「命令コード001は殺しの命令だよ、この場所の秘密を知ってもらっては困るのでね。まだ僕はここでいろいろと研究をしたいからねえ、いひひ!」

「そんな自分勝手なことを……!」

「ああ、そんなことを言っている場合かな? 君たち、別に気にしているのかそれともその身体を神に捧げるつもりなのかは知らないけれど……、どちらにせよ君たちには勝ち目が無いよ。一応言っておくけれど、このメタモルフォーズは水を操作することが出来る。君たちの体内に含まれている構成要素、その八割が水分と言われているのは周知の事実であると思うけれど……、それを操作されてしまったら、どうなるだろうねえ?」


 ぞっとした。

 背中に悪寒が走る――とはまさにこのことを言うのだろう。いずれにせよ、このままでは大変なことになる。先ずはそれをどうにかしないといけない。ああ、メアリーを探さないといけないのに、こんな厄介なことに巻き込まれてしまうなんて!

 そこで僕はふと、何かに気付いた。

 もしかして――ここの研究員は僕たちが入ってくることを最初から察知していた?

 だとすれば話は早い。僕たちが予めそこから入ってくるように仕組んでおいて、そこにメタモルフォーズを待機させる。そういうことで確実に僕たちを排除する狙いがあったとすれば?


「すべてあの研究者の掌に踊らされている、とすれば……」


 それは非常に厄介であり、かつ非常に面倒なことだった。

 しかし、どうすればいいのか……。


「何してんだ、フル!」


 そこで僕は我に返る。

 メタモルフォーズが走り出したのだ。それを見ていて何も動じなかった僕を見ておかしいと思ったのだろう。ルーシーがすぐに声をかけて、肩を揺すった。

 そして目の前に迫るメタモルフォーズを見て、踵を返した。

 先ずは逃げて時間を稼ぐ必要がある。

 そう思って僕たちは大急ぎで走り出した。



 ◇◇◇



 バルト・イルファはモニタを見ていた。

 そこに映し出されたのは、フルとルーシー、それにレイナが逃げている姿だった。


「……それにしても、あの時と比べると若干メンバーが増えているね。何の意味があるのか解らないけれど……、まあ、彼にも彼なりの考えがあるのかもしれないね。あの時も、確か結局それによって一つの結末を迎えたわけだし」

「どうするつもりかな? バルト・イルファ」


 彼の背後には、フランツが立っていた。

 声を聴いて、振り返るバルト・イルファ。


「……おや、フランツ。研究は休憩中かい?」

「侵入者と聞いて、安心して研究が出来るわけがないでしょう? しかもそれが予言の勇者というのであれば猶更です」


 溜息を吐いて、モニタを見るフランツ。

 フランツはモニタに映るフルとルーシーを見て、首を傾げる。


「それにしても、勇者は意外と若いのですね。ほんとうに、メアリーと変わらないくらい。簡単にメタモルフォーズどころか大人に殺されてしまいそうな子供ですけれど。ほんとうにこの子供が予言の勇者なのですかね?」

「気になるようであれば検証すればいいさ」


 バルト・イルファは歌うように答えた。


「検証? そんなこと出来るとでもお思いですか。ただでさえ資金が枯渇してきそうであるというのに、そんなこと出来るわけがないでしょう。お上からの指示もまだ到達していないというのに……」

「結局、オリジナルフォーズそのものを起こすしかないわけだろ? 今までわざわざあの島に何度も遺伝子を手に入れるために肉片を回収してきたけれど、それにも限界がある。というかその処置自体暫定処置だった。暫定、というからには終わりが必ずある。そして、その後の対応が、オリジナルフォーズの覚醒……ということだ。そうだろう?」


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