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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第六十一話 シュラス錬金術研究所⑭

「知恵の木の実、ねえ……」


 私はそんなことを呟きながら読み進めていった。知恵の木の実は神ガラムドが生み出したものということで有名らしいけれど、こういう神話から裏付けされたということなのね。意外と原典を読んでみるのもなかなか面白いかも。というか、なぜこのタイミングでこれを面白いと思えたのかが面白いところではあるけれど。

 まあ、それは戯言だけれど。

 そんなことを言いたいがために私はこれを見ていたわけではない。さらに本を読み進めていけば、きっと私の知りたい情報が出てくることだろう。

 そう思って、私はさらにその本を読み進めていった。

 さらに読み進めていくとこのような記述を見つけた。偉大なる戦いのとき、ガラムドはある錬金術師に知恵の木の実を授けているのだという。そこでははっきりと知恵の木の実とは書かれていないものの、その説明文からして、その言い回しからして、私はそれが知恵の木の実であることを理解した。

 しかし、知恵の木の実はその説明がいずれも事実であるとするならば、偉大なる戦い以前にも存在していたことになる。

 それって何だか矛盾していないだろうか?

 だって知恵の木の実が存在したのは、神が生み出したからと言われている。それがその通りであるとするならば、今の話題は完全に矛盾することとなる。どちらが正しいのだろうか? そう思ったとしても、この歴史書めいた古書にはどちらの説も記載されている。


「……だめだ。もっと何かあるはず……」


 こう読み解いていくうちに、私は何かあることが気になった。



 ――この世界は、何か裏があるのではないだろうか?



 もしかしたら、私たちこの世界に住む人間の殆どが知らないような、重大な事実が。

 この世界にはあるのかもしれない。もし、そうであるとするならば、私はそれを突き止めたい。そしてそれを、その情報の断片を少しでも得るためにはこの蔵書は役立つ可能性がある――そう考えて私は古書の読み解きを再開した。



 ◇◇◇



 グランドタワーの展望台に向かうにはエレベーターに乗る必要がある。正確に言えばエレベーターではなく昇降機と呼んでいたのだけれど、エレベーターの日本語訳が確かそれだったと記憶しているので、全然不思議な話ではない。

 昇降機にはたくさんの人が載っていた。別に僕たちだけの話ではない。ここは連日多くの人が訪れる観光地のような場所なのだろう。そうかもしれないけれど、ここに住んでいる人もやってくるのだろうか? だって毎日のようにその姿を外から眺めているはずだから、そう何度も訪れることはないとは思うのだけれど。

 それはどうでもいい。それについては僕が簡単に語るべきことではない。

 飄々と。

 淡々と。

 黙々と。

 それを僕が語る権利はないのかも知れないけれど。

 昇降機を降りて、空間が広がる。目の前に広がるのは、広大な景色。ガラス張りになっているため、外の景色が一望できる。当然といえば当然かもしれないけれど、床は普通だ。壁がガラス張りとなっているだけ。僕の世界にあった、普通のタワーと同じような仕組み。

 まあ、それについては予想通りだったと思う。

 あと、これも予想通り。やっぱり外の景色を眺める人は居なかった。居なかった、とは言い過ぎかもしれないかな。実際には少しは見ている人も居る。けれど、実際に昇降機に乗ってきた人は展望台にあるレストランやちょっとした観光をしているだけに過ぎない。或いは楽しんでいるのは子供だけで大人は退屈そうに話をしているか本を読んでいるか……といった感じ。

 正直、それだけ見ていると僕のいた世界と何ら変わりない。


「……わあ、いい景色だねえ」


 レイナはそう言って、手すりに手をかけた。

 確かに景色は良い。だが、広がっている景色は僕の想像通りの景色が広がっていたので、少し肩透かしを感じる。

 そして、人もいない。

 話を聞くこともできない。

 はっきり言って、ここに来たことは失敗だったか?


「……あれ、フル、ルーシー。あれは何だ?」


 レイナの言葉を聞いて、僕は踵を返した。僕だけじゃない。ルーシーもそうだ。ルーシーもその声を聴いてレイナに近づく。

 レイナは僕たちが隣に立ったことを見計らって、それを指さす。


「ほら、あれ」


 そこにあったのは岩山だった。ただの岩山という感じではない。粘土細工のような、ところどころ穴が開いている。


「……何だ、あれは?」


 レイナが言った言葉をそのまま反芻する形で僕は言った。


「あれはメタモルフォーズの巣だよ」


 声を聴いて、そちらを向く。

 そこに立っていたのは眼鏡をかけたいかにもな一般市民だった。

 一般市民の話は続く。


「……あれはかつてどこかの研究施設をメタモルフォーズが乗っ取った、と言われているよ。実際にどこまでほんとうなのかは解らないけれど。……この町の人間ならば常識だったと思うけれど、それを知らないところを見ると君たちは旅人かな?」


 ニヒルな笑みを浮かべて、一般市民は眼鏡をくいと上げた。

 僕は頷くと、一歩前に立った。


「はい。実は今日この町に来たばかりで……。機械がたくさんありますね。ほかの町とは違う。それにしても……あの巣は誰も対策しようとはしないのですか?」

「そんなことを僕に言われてもね」


 肩を竦めて、話を続ける。


「ああ、でも、噂だけれど、あの巣をさっさと破壊しないのは裏の研究施設が未だ生きているからかもしれない……というのはあるよ。実際問題、あそこはメタモルフォーズの巣になっている。時たま、メタモルフォーズがここに攻めてくることもある。だが、根本的な対策には至っていない。それくらい科学技術が発展していてもおかしくないのに。だから、そういわれている。まあ、あくまでも噂の一つだから、本気で信じている人なんてそう居ないけれど」


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