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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第五十一話 シュラス錬金術研究所④

「求める人材……ですか。まあ、いいでしょう。実際、人材は多ければ多いほうがいい。現に今、とても人材は少ない。どうしてかわかりますか? あのメタモルフォーズという謎の獣がスノーフォグから出発したと噂されているからなのですよ」


 淡々とした口調で話しているが、その口調にはどこか怒りが込められているように見えた。

 商業区長の話は続く。


「それによって我々の商売は衰退の一途を辿っています。何故か解りますか? メタモルフォーズがやってくる国の商品など買いたくないなど言っているのですよ。はっきり言って言いがかりにも程がある、眉唾物の言葉ではあるのですが……。しかし、その言葉は案外強く効く。その意味がお解りですか?」


 人の噂も七十五日、とは言うが裏を返せば七十五日間もその噂は継続するということになる。つまり今はその七十五日の間、ということになる。

 噂が流れている間は、たとえ本人がそれを払拭しようと躍起になってもなかなか回復出来ないものである。

 そしてそんなことは、商業区長も解り切っていたことだった。

 だからこそ、敢えてその噂を大急ぎで払拭せねばならなかった。

 商業は信頼が一番の交渉材料と言われている。たとえ品質の高いものを販売しようとしても、信頼が無ければそれを販売することは難しい。それどころか在庫が減るかどうかも怪しい。しかし、信頼さえあれば若干品質が低いものであったとしても、『信頼』が交渉材料として上乗せされて、販売が成立する。


「……まあ、そんなことはどうでもいい。問題はその影響が国内にも出ている、ということなのですよ。国内でもメタモルフォーズに関する不安を感じる意見はとても多い。そして我々のような人間を護衛してもらうために、たとえば用心棒のような存在もなかなか見つからないのですよ。メタモルフォーズに対処できるかどうか解らないということでね……」

「それであれば、僕たちは幾度かメタモルフォーズと戦ってきています」


 それを聞いて、商業区長の目つきが変わった。

 ほう、と頬杖をついて首を傾げる。


「ということはメタモルフォーズに対する策も幾つか持ち合わせている、ということでよろしいのですか? ならばこちらとしても願ったりかなったりではありますが……」

「ええ、そのような認識で構いません」


 僕の言葉に商業区長は大きく頷いた。

 どうやら交渉はいい方向に動いていったようだ。

 こうして僕たちは無事――エノシアスタへの隊商、その護衛に合格するのだった。



 ◇◇◇



「いやあ、何とかなるものだね。それにしても、ちょっとは緊張していたものだったけれど、フル、全然慌てているように見えなかったよ。むしろどっしりと構えていたよね」


 終了後、街並みを歩いているとルーシーがそんなことを言ってきた。

 別に僕としてはいつもと同じように話していたつもりだったのだけれど――いや、それは訂正しよう。ちょっとは緊張していた――どうやらルーシーにはそれがどっしりと構えていた、という風に見えていたらしい。まあ、内面性と外面性は必ずしも一致しないからそれは案外普通なことかもしれないけれど。


「確かに、かなり落ち着いているように見えたよ。やっぱりフルをメインに据えていてよかった」


 そう言ったのはレイナだった。レイナはそれを提案した張本人だったわけだけれど――、いざ始まってしまうと、案外話すことが出来ないものだ。というよりもレイナが話すよりも先に僕が話してしまって話の流れを作ってしまったのが一因かもしれない。

 さて。

 そうと決まれば出発日までの時間つぶしだ。出発日は明後日と決まっているので二日ほど、どこかで時間を潰さないといけない。宿はとっているから宿に戻ってもいいのだけれど、もう少しここで情報収集してもいいような気がするが……。


「というかここまで来たらエノシアスタに行ってから情報収集したほうがいいんじゃないか? それともここで情報を少しでも仕入れておく? それはそれで構わないと思うけれど」

「うーん、そうなんだよな。ここで有益な情報が手に入ったとしても、一度請け負った仕事はやっぱり最後までやらないといけないのは当然の責務だ。だから出来ることなら情報はここで仕入れないほうがいいかな、とは思うけれど――」

「おい、てめえ! ぶつかっただろ!」


 僕たちの話を遮るように、昼間の状態には似つかわしくない男の大声が聞こえた。

 そちらを向くと、酒瓶を持ったいかにも酔っぱらっています、という感じの男が立っていた。

 男から少し離れた位置には大きな銃を背負った女性が背を向けて立っている


「……、」


 女性は答えない。

 男はさらに話を続ける。


「おい、聞いているのかよ! お前、さっきぶつかっただろ、って言っているんだよ!」


 男はゆっくりと近づいて、銃に触れた。

 その時だった。

 踵を返し、男の手を取り、そのままその手を地面に落とし込んだ。男のほうが図体が大きかったにも関わらず、男は地面にその身体をつける形になった。

 男はなぜそんなことになってしまったのか解らず、呆気にとられていた。


「……汚い手で私の銃に触れるな」

「……メタモルフォーズを倒せば偉いのかよ、掃除屋、っていう職業はよお!」


 男は言葉を投げつけるが、女性は表情を一つ変えることなく立ち上がると、そのままもともと歩いていた方向へ歩いていった。


「……なあ、今聞いたか?」


 ルーシーは僕に語り掛ける。

 ああ、聞いたよ。

 気になるワードが、幾つか登場していた。

 メタモルフォーズを倒す、掃除屋。

 もしかしたら彼女ならばメタモルフォーズに関する情報を幾つか掴んでいるかもしれない。そう思って僕たちは彼女の後を追いかけた。


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