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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第三章 スノーフォグ編
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第四十九話 シュラス錬金術研究所②

 そんなことを考えていたところで、僕の肌に何か冷たいものが当たる。

 それが雪だと気付くまで、そう時間はかからなかった。


「雪……」


 そういえば、僕たちが今から向かう国の名前は、スノーフォグだった。

 雪が入る国名、それは、その国がそれほど寒い国であることを象徴するようにも思えた。

 そして外を眺めていくと、霧がかった向こうにうっすらと島が見えてきて、その島の高いところに明かりが併せて見えてきた。きっと灯台だろう。このような状態でも安全に航海が出来るように対策されているのだ。そう考えると、この世界の航海技術もそれなりに発展しているように思える。

 そうして、僕たちを乗せた船はスノーフォグ最南端の港町――ラルースへと到着した。




 碇が下され、埠頭へと橋がかかる。

 そうして僕たちは船を下りる。町には雪が降り積もっていて、とても寒かった。こんなときのために外套を用意しておいてよかった――そう僕は思ったと同時に、メアリーが心配になった。彼女は外套を持っていない。正確に言えば、外套を持つこともなく攫われてしまった。場所がどういう場所だか定かになっていないが、もしそれなりに寒いところであれば、早く彼女を救出する必要があった。

 ルーシーから聞いたスノーフォグの基礎知識を、脳内でまとめることも兼ねて簡単に説明することにしよう。

 スノーフォグはもうすでに理解している通り、とても寒い国だ。国土自体北方に位置している国であるため、最南端であるこの町を皮切りに海に氷が張っている場所が多い。そのため、砕氷船を通して氷を壊していかないと、僕たちが乗ってきた船のように安全に航海することが出来ない。


「さて、問題は……」

「ここからシュラス錬金術研究所へ、どうやって向かうか、だね……」


 そう。

 シュラス錬金術研究所はスノーフォグのどこか、としか解っていない。だからどこかがはっきりしない限り、国内を縦横無尽に駆け巡る、ローラー作戦めいたものも考えてもいるが、はっきり言ってそれはあまりにも時間がかかりすぎる。それに、スノーフォグの全体的な面積はハイダルクのそれとほぼ同等であるため、そう簡単に駆け巡ることは出来ない。それに、この世界最大の離島もあるくらいだし。そんなところに、船を持っていない僕たちがどうやって行けばいいのか? それも問題だった。


「ただ、僕たちには唯一の手がかりがある」


 一本指を立てて、僕は言った。


「どういうこと?」

「どういうことだ?」


 ルーシーとレイナが同時にそう言った。


「ミシェラとカーラが言っていたことを、僕は覚えている。十三人の忌み子のこと、そして、彼女たちがもともと住んでいた場所のこと」


 それは僕があの夜一人で聞いたことだった。

 結局ミシェラは敵だったわけだけれど、あの発言自体の裏付けはカーラとエルファスの村長からとれている。だから滅んだ村の記憶はスノーフォグの人々に刻まれているはずだ。


「そうか……。その情報が真実ならば、まだ可能性は有るかな」


 ルーシーの言葉に僕は頷いた。


「だとしても、問題はまだあるぞ。その『滅んだ村』だっけ? それを知っている人間がどれくらいいるか、だ。その十三人の忌み子とかよく知らねーけれど、結局それが組織によってもみ消されていたらそれまでじゃねーの?」

「それはそうかもしれない。けれど、そうだとしてもまずは聞き込みから入るしかないだろうね。滅んだ村はどこにあるのか、そしてこの町で拠点を確保することもね」




 ラルースという港町について整理しよう。

 ラルースは町の南部に埠頭がある大きな港町だ。町の中に灯台があるくらいだから、相当規模は大きいものと思える。絶えず積荷が船に載せられていくところを見ると、経済は運搬や商人で回っているようだった。

 それに、どこか子供が多い。さっきも子供とすれ違ったけれど、その量は大人の倍以上に見える。もしかしたら航海に出てしまって殆ど大人は居なくなってしまっているのだろうか? だとすれば、ここはいわゆる子供の町と言っても過言ではないかもしれない。

 僕の提言により、宿屋を探すことになった。宿屋は埠頭のすぐそばにあったので、そう慌てることもなかった。

 中に入ると、カウンターへと向かう。カウンターに居たのは、予想通り子供だった。


「いらっしゃいませ、宿泊ですか? 休憩ですか?」

「宿泊で。女性が居るので、二部屋とりたいんですけど」

「余裕ですよー、空き部屋は幾らでもあるのである程度の希望は聞くことが出来ますけれど、何かありますか? 角部屋とか、日差しが入る部屋がいいとか」


 不動産じゃあるまいし。


「えーと……いや、取り敢えずどこでもいいです。しいて言うなら二部屋は隣同士で」

「了解です。それじゃ、二階の二号室と一号室の鍵、お渡ししておきますね」


 そう言って、カウンターに居る子供は鍵を二つ手渡す。

 そのタイミングで僕は一つ質問した。


「そうだ。一つ質問したいのだけれど。……この近くで、何らかの要因で滅んでしまった村のことを知らないか?」

「滅んでしまった村、ですか? ……いや、あまり聞いたことがないですね。すいません。私、この町から出たことが無いので。もしかしたら商人さんに聞けば何か解るかもしれませんよ。だって、商人さんはスノーフォグの至る所からやってきて、ここから船に乗って世界各地へ向かうので」

「成る程、いい情報を聞いた。有難う」


 一礼して、僕たちはさっそく休憩と今後の方針を考えるべく、部屋へと向かった。


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