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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二章 ハイダルク編
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第四十三話 炎の魔術師①

 僕たちは馬車を乗り継ぎ、ハイダルク最北端の港町、バイタスへ到着した。

 エルファスやリーガル城の城下町と比べるとその喧騒は少なく、静かな、ゆったりとした雰囲気が流れていた。

 もう夕方になっていたので、スノーフォグへの船は既に終了していた。もともと急ぐ旅ではないと考えていたので、無理に急ぐことなく明日の朝スノーフォグへ向かうことで僕たちの意見は集結することとなった。

 今回僕たちが泊まることとなった宿は埠頭近くの小綺麗な宿。下宿と酒場を兼ねている、人気のあるお店だ。二人部屋が二つも空いているとは考えていなかったが、意外にもスムーズにとることが出来た。

 一階のレストランで僕たちは夕食をとることになった。


「はい、今日のメニュー」


 そう言って女性――女性にしては屈強な身体だし、顎鬚も生えているが、それについてはあまり言及しないほうがいいだろう――は四人分のおかずとライス、スープをお盆に乗せて持ってきた。

 おかずは鳥の丸焼きにソースをかけたようなシンプルな料理となっている。周りには野菜が盛り付けられている。なかなかシンプルな盛り付けとなっているけれど、とても美味しそうだ。


「いただきます」


 両手を合わせて、頭を下げる。

 どうやらそういう形式的なものは異世界でも特に変わらないようだった。それはそれで嬉しいし、むしろ好都合であった。

 そうしてフォークを手に取ると、鶏肉のスライスを刺し、それを口に入れた。

 すぐに口の中に塩気が広がる。その塩気はライスを進ませるにはちょうどいい味付け。ずっと今日馬車を乗り継いできて、とても疲れている僕たちにとってはちょうどいい塩気と言ってもいいだろう。汗をかいていて、塩分を欲しているというのもあるだろうけれど。


「美味しい……!」

「そう言ってくれると、作った甲斐があるというものだよ。はい、これサービス」


 そう言って女性はもう一つお皿を持ってきた。

 そのお皿には刺身が乗っていた。


「刺身……。こんな量の刺身をサービスで、いいんですか?」


 訊ねたのはメアリーだった。

 女性は首を振って、


「ああ、ああ。いいんだよ。そんな畏まらなくて。うちはそんな固い雰囲気じゃなくていい。アットホームな雰囲気を目指しているからね。だから普段通り話してくれればいいし、これはあんたたちがとっても美味しそうに食事をしていたから、それについての礼と思ってくれればいいよ」


 そうして女性は厨房のほうへと向かっていった。

 刺身の内容を改めて確認すると、色とりどりの魚の切り身が入っていて、とても美味しそうだった。

 刺身と言えば、醤油だ。しかし、疑問となるのはここが異世界であるということ。ならばこの世界では醤油の代わりに何をつけるのだろうか……。

 そんなことを考えていたら、メアリーが小皿に黒い液体を注いだ。テーブルの脇に置かれていた小瓶から注いだものだった。

 小瓶にはこう書かれたシールが貼られていた。

 マキヤソース。

 この世界の人間はこれを使っているのか――僕はそう思って、メアリーからマキヤソース入りの小瓶を受け取った。マキヤソースを小皿に注いで、今度はルーシーに手渡す。

 小皿に満たされた黒い液体。それは何も言われなければ醤油のそれと等しかった。

 箸を手に取って、刺身をとる。そうしてマキヤソースにつける。すると脂が浮いた。けっこう脂が乗っている魚なのかもしれない。

 そして僕はそれを口に入れた。


「……美味い」


 やっぱり、それは僕が知っている醤油そのものだった。やっぱり、醤油の生産技術は異世界でも共通なのだろうか。

 そして僕たちは、夕食へと戻っていく。

 そのどれもが美味しく、とても満足できるものだった。

 そして、夕食後。僕たちは部屋へと戻るべく、廊下を歩いていた。


「ところでスノーフォグとメタモルフォーズって、何か関連性があるのかな?」


 ルーシーがふいに問いかけた。


「今のところ関連性は無いと思うけれど……しいて言うならば、祈祷師が国王をつとめていることかしら。祈祷師はガラムドの子孫だし、何か詳しいことを知っているのかもしれない」

「祈祷師……か」

「まあ、難しいことを考えるのはよしましょう」


 言ったのはレイナだった。


「どうせスノーフォグには明日向かうのでしょう? だったら、難しいことは考えないで、また明日考えたほうがいいじゃない。私はいつもそういう感じで生きてきたし」


 ……難しいこと、か。

 そう言われてみると、今日はとても疲れていた。

 僕は大きな欠伸をして、そう思った。


「それじゃ、詳しいことはスノーフォグに向かう船の中で考えることにしましょう。それでもまだ遅くないから」


 メアリーの提案を受け入れて、僕たちは眠りにつくことにした。

 そう結論付けたところで、ちょうど僕たちの部屋――右側が女性陣で、左側が男性陣の部屋に到着した。

 向かい合って、僕たちは言った。


「それじゃ、おやすみ」

「おやすみ、また明日」


 そうして僕たちは、それぞれの部屋へと入っていった。


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