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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二章 ハイダルク編
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第四十一話 さようなら、ハイダルク②

 ゴードンさんはレイナを見つめて、そう言った。

 ゴードンさんたちは、兵士としてこの町の平和を維持すべく日々活動している。しかしながら、平和が続く昨今ではそれもマンネリ化しているのだろう。

 そこで、今起きている平和からの転換を、どうにか防がなくてはならない。


「……まあ、それがどうなっていくかは解らないけれどね。我々が平和を、未来に託していかないといけない。そういうことは義務だ。我々が争いの絶えない世界を、未来の君たちに託してはいけないのだよ」

「ゴードンさん……」


 僕、メアリー、ルーシーが合わせてゴードンさんに声をかけた。

 その時だった。

 時計塔の鐘が鳴った。

 リーガル城城下町のシンボルである、時計塔の鐘が鳴った。

 銃を落とした音を聞いて、僕たちはゴードンさんのほうを向いた。

 ゴードンさんは何か気持ち悪そうな表情を浮かべていた。


「……ゴードンさん、大丈夫ですか?」

「近づくな」


 近づこうとしたメアリーを強い語気で退こうとするゴードンさん。

 背後で異変を感じ取ったレイナも踵を返していた。


「おい!」


 レイナは走って、ゴードンさんのほうへと走り出す。

 その間にもゴードンさんは跪く。見る見るうちに、恰好が変わっていく。正確に言えば、彼の身体の内から何かが変形しているような感覚だ。暴れている、と言ってもいいだろう。

 ゴードンさんの身体が変化していく。

 僕たちはとても恐ろしくて、一歩もそこから動けなかった。

 そして、ゴードンさんの背中から――巨大な白い翼が現出する。

 ミシェラの言葉が僕の頭の中をこだまする。



 ――メタモルフォーズは人間とは明らかに異なる部位、翼部の現出により判断する。



 その通り、ゴードンさんの身体には巨大な白い翼が生み出されていた。白い翼、といえば天使のそれを想像するが、その翼は羽で出来ていて柔らかいイメージがあるのに対し、ゴードンさんのそれは筋肉質でゴツゴツとした感じだった。それだけで、奇妙な雰囲気を放つのには十分すぎた。


「メタモルフォーズ……!」

「はは……。どうやら、あの少女の血を浴びてしまったことが原因だったのか」


 ゴードンさんは未だ意識があった。未だ自分の言葉を話すだけの意識は持ち合わせているようだった。


「聞いたことがあります。メタモルフォーズは人間のそれと大きく異なるポイントがある、と。それが翼である……」

「そんな……。つまり、ゴードンさんは……」


 ゴードンさんの翼の現出により、周りの住民も慌て始める。当然だろう、今まで国を守ってきた兵士が倒れこみ、その兵士から人間とは明らかに違うパーツ――翼が生えてきたのを目の当たりにすれば、驚かないわけがない。


「フル・ヤタクミ……私はもう、『人間』ではないのだろう……?」


 僕に問いかけたゴードンさん。

 その質問の答えは、紛れもなくイエスだ。だから、僕は首を縦に振る。


「だったら私を殺してくれ……。頼むよ……」


 ゴードンさんと僕たちの周りに兵士がやってくる。兵士はメタモルフォーズの状態変化を初めて見たからだろう。その状況に狼狽えて何も出来ない兵士も居た。

 それは僕たちも同じだった。

 ただ、動けなかった。

 レイナも同じだった。レイナはゴードンさんの前に立って、涙を流していた。


「……何で、何でこいつがこんな目に合わないといけないんだよ」


 レイナは悔しそうに、そう言った。

 僕たちも、兵士のみんなも、その言葉に答えることは出来なかった。


「何で、何でなんだよ……」

「殺せ」


 兵士の真ん中に立っている、いかにも階級が一つ上の女性は言った。どうやらゴードンさんとは顔見知りなのか、ゴードンさんがそちらを向いて笑みを浮かべる。


「まさか、お前に殺されることになるとは、な。数奇な運命とは、このことを言うのだろうか」

「さて、どうでしょうか? ……いずれにせよ、チェックしなかった我々のミスでもあると言えます。まさか、あのバケモノにこのような結果で感染が認められるとは……」


 そう言って、女性は銃を構える。


「これは特殊な銃です。この弾丸が命中すると、眠るように死に至ります。痛みを感じることはありません。まったく、平和ボケした人間が考える兵器とは思いませんか?」

「貴様は昔から御託を述べるのが多かったな。さっさと殺してくれないか。さっきから身体を組み替えているのか知らないが、とても痛くてね。話をすることすらままならない。……まあ、人を襲う前に死ぬことは未だいい結果なのかもしれないがね」

「ええ、私もそう思っていますよ」


 そう言って、女性は銃の水準を彼の心臓に合わせた。


「……レイナ、すまなかったな」

「……何を言っているんだよ。こんな結末、認めねえぞ……」

「ははは。まあ、仕方ない結末だった。……カミサマが試練を与えたと思えばいい。……フル・ヤタクミ、レイナを頼むぞ。彼女を再び盗賊稼業に戻すことは、俺が許さない」

「……解った」


 僕は、その一言しか答えることが出来なかった。

 そして、女性は銃の引き金を――ゆっくりと引いた。


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