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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二章 ハイダルク編
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第四十話 さようなら、ハイダルク①

 次の日の朝。

 目を覚ました僕たちは町へ向かうこととなった。理由は特にないけれど、しいて言うならばレイナが町へ向かいたいと言い出したことが原因だった。


「……どうして町へ向かおうとしたんだい?」

「だって、もうあんたたちはこの町を出ていくだろう?」


 振り返り、レイナは言った。


「だったらこの町でやり残したことをすべて終わらせてしまったほうがいいんじゃないかしら? それとも、まだ戻れる可能性を残しておいたほうがいいとでも?」


 可能性。

 やり残したこと。

 まるでもうここには戻りたくない――レイナはそんなことを言っているようだった。

 きっと気のせいなのかもしれないけれど……まあ、あまり考えないでおいた。

 それはそれとして。

 僕たちは町を歩いていた。今居るのは商業店が多く立ち並ぶエリア。ここに居る理由は、彼女がずっと生業としていた盗賊稼業で『世話になった』人たちに挨拶に回るためだという。


「というか、世話になった、って……単純に今までモノを盗んだ人たち、じゃないの?」

「君たちはそういう風に解釈してしまうのかもしれないけれど、私は少なくともそのように解釈していないよ。実際、私はずっとこの町と生きてきた。この町の人たちと、常に切磋琢磨しながら活動してきたんだから」

「それが犯罪行為だったとしても、そう胸を張って言えることかね?」


 その声は、ゴードンさんの声だった。

 ゴードンさんは路地から姿を見せて、僕たちの前に立っていた。


「……何か用かしら?」

「別に君を捕まえるつもりなど無いよ。……ただ、君が居なくなると少し寂しくなるな、というだけだ」

「もっと私に暴れてほしい、ってことか?」

「そういうことではない。君はずっと私たち兵士たちを悩ませていた。しかし、この平和な世界では君のような盗賊に手を拱いている状況こそが、平和の象徴そのものだったのかもしれないな……。ただ、それを言いたかっただけだ」

「褒められているのか貶されているのか解らないが……、まあ、受け取っておくよ。もう二度とあんたと追いかけっこすることも無くなるだろうし」

「それが『足を洗った』という意味での話であれば、こちらも両手をたたいて歓迎したかったところだが……。やっぱり盗賊稼業は続けるつもりかい?」

「どうだろうねえ。やっぱりこういうメンバーに入った以上は出来ないかもしれないよ。ほら、だって、迷惑をかけることになるだろう? 迷惑をかけてしまったら、私が求めるものも手に入らなくなる。まさに、ギブアンドテイクというやつだ」

「……よく解らんが、お前らしいといえば、らしいものだ」


 鼻で笑うゴードンさん。

 それを見たレイナはどこか恥ずかしそうな表情を浮かべて、すたすたと歩いていった。


「結局変わらないか……。まあ、仕方ないといえば仕方ないかもしれないが。いずれにせよ、この町が若干静かになることは間違いないだろうよ」


 ゴードンさんの言葉を聞いて、首を傾げるメアリー。


「それじゃ……あんまりこの町って犯罪とか起きないんですか?」

「起きないよ。この町の平和ぶりを見てみれば解る話だろう? この町はいつも平和だ。だが、平和はいつまでも続くものではない。むしろ平和以外の時間に比べれば限りなくゼロに近いくらい短いものだ。そんな中、この町で唯一の犯罪者と言えば……レイナだった」

「レイナが……唯一?」


 確かにこの町はのほほんとした雰囲気を醸し出していて、どちらかといえば平和一色としか言いようがないくらいの雰囲気に包まれているのだけれど、まさかそこまで平和だとは思わなかった。

 ゴードンさんの話はなおも続く。


「だからこそ、誰も彼女を捕まえようとはしなかった。なんでだと思う?」

「……エンターテイメントを、市民が求めていたから?」


 即座に答えたのは、やはりメアリーだった。


「その通り。エンターテイメントがこの町には不足していた。だからといって、盗賊にエンターテイメントを求めるのは如何なものかと思うが……。しかし、市民は我々と彼女の大捕り物、正確に言えば捕まえていないから捕り物にはならないのだが……、それを楽しんでいた。現にこの町がひどい有様だったなら、もっと我々は本気で活動している」


 平和だからこそ出来る、やり取り。

 僕はそう思った。だってこの世界が少しでも平和じゃなかったら出来ないことだと思ったから。


「……彼女についての昔話はこれで終わりだ。お前たちについていく、と言ったときは正直驚いたが、彼女には彼女なりの引き際を考えていたのだろう。だとすれば、それを我々が止めるのは野暮というもの。せめて最後まで見送ってやりたいものだよ」

「ですが、僕たちはここに来た理由は……」

「それは、もう君たちも知っていることではないのかな? 確かに君たちはこの城へやってきた。そしてその理由はラドーム学院では安全が保たれないと思ったためだ。しかし、リーガル城まで敵の侵攻を許してしまった現状、我々でも君たちを守ることは出来ないと判断した。それと同時に――『平和』は終わったのだと、王は判断されたそうだ」

「それってつまり……」


 僕の言葉に、ゴードンさんは目を細めて頷いた。


「申し訳ない。君たちをここで守ることは、出来ない。これからは君たち自身の力で、何とか頑張っていただきたい。これを言うのは、ほんとうに申し訳ないことではあるのだが……。これも王の命令なのだ。我々はこの城を守るために仕えている。この城を守るために、もっと我々も頑張らなくてはならない」


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