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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二章 ハイダルク編
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第三十九話 決戦、リーガル城⑩


 そのあとの話を簡単に。

 ミシェラが殺されたことによって、メタモルフォーズの大群は消え去った。やはりサリー先生の予想通り、ただの幻影だったらしい。もし彼女が死んでも消えなかったらそれはそれで厄介だったが。

 ミシェラの遺体は秘密裡に処理されることとなり、そのまま淀み無くエルファスに居るカーラさんの元へ届けられることとなった。『処理』と言ってもあくまでも火葬や土葬の段階まで進めたわけではなく、必要最低限の処置をしたまでのことだという。

 カーラさんがどのような心境でその事実を聞いたのか――出来れば考えたくない。

 その日の夜は酷く眠れなかった。

 目の前で首を斬られた人間を見たから?

 それとも仲間が裏切ったから?

 ……いいや、何故だろうか。

 どうして眠れなくなってしまったのか――それについては理解できなかった。理解したくなかった、と言えば間違いではないのかもしれないけれど、きっとそれは、いろんな感情がごちゃ混ぜになってしまった、その結果なのかもしれない。


「……フル、眠れないの?」


 外を見つめていたら、隣から声が聞こえた。

 その声はメアリーだった。そちらを向くと、メアリーも隣のベランダから空を眺めているようだった。ああ、そうだった。説明を省いていたかもしれないけれど、今日も男女別の部屋だ。別に何も起きないけれど、何か起きたら……という配慮なのだろう。


「そうだね、ちょっと今日はいろいろあったから……」

「そうだよね。仕方ない、なんて一言では片付けられないくらい、今日はいろいろとあったよ。……まさか彼女が敵なんて、知るはずがないのだから」


 メアリーの言葉ももっともだった。もしあの状況で敵だと解るのならば、それは予知のレベルに近い。

 でも、そんな理不尽ともいえることであったとしても、僕は自分が許せなかった。

 どうしてこのような結末を、防ぐことが出来なかったのか――ということについて。


「難しく考えないほうがいいよ」


 そう言って、深く溜息を吐いたのはメアリーだった。

 さらにメアリーの話は続く。


「普通に考えても解る話じゃないよ。だって、あなたは悪くないのよ。私だって、ルーシーだってそう。みんな悪くないの。あなただけが悪いわけじゃない。誰も悪くないのよ」

「うん……ありがとうメアリー。なんだか少しだけ、頑張れる気がするよ」


 メアリーはいつも勇気をくれる。僕を励ましてくれる。とっても優しい。

 メアリーが居るから、僕は頑張れる気がする。

 そう思ってメアリーと別れると、僕はそのままベッドに潜り込んだ。

 やっぱり眠れなかったけれど、メアリーと話したからか、少しだけ眠れるような気がした。



 ◇◇◇



「リーガル城の襲撃は失敗に終わりましたか」


 リュージュは水晶玉を見つめながら、彼女の向こう側に膝をついている科学者に告げた。


「はっ。リーガル城へと向かわせたメタモルフォーズが不完全だったようで……」

「だから言ったじゃない。自分で精神をコントロールできないようならば、ココロをメタモルフォーズに植え付けるのではない、と。メタモルフォーズはただの木偶。けれど優秀なメタモルフォーズにはココロを植え付けて自分で物事を考えさせる」

「僕のように?」


 リュージュの隣にバルト・イルファが近づいた。

 バルト・イルファはリュージュが腰かける椅子に体重を乗せて、


「……まあ、ココロって不完全で不確かなもの、というくらいだからね。それがほんとうに正しいか正しくないか、なんて科学者のミナサンにも難しいことじゃない?」

「……それをメタモルフォーズであるあなたが言うのかしら?」


 リュージュは溜息を吐いて、再び科学者を見遣る。


「はてさて、今回の失敗について、どう言い訳をするつもりかしら」

「メタモルフォーズにはその種を広げていくための手段があることをご存知でしょうか」


 逆に質問されたリュージュは一度バルト・イルファのほうを見て、考える。

 数瞬の時間をおいて科学者を見ると、


「感染、だったかしら。空気感染ではなくて、経口感染だったと記憶しているけれど」

「ええ。そしてメタモルフォーズに感染する人間には特徴があると考えています。しかしながらまだその条件ははっきりとしておらず、未確定となっているのですが……」

「それがどうかしたのかしら? 明らかに言い訳とは繋がらないように見えるけれど」

「いいえ、これは言い訳ではありません。一つのプランの説明をしています。メタモルフォーズを失ってばかりでは、こちらもすぐに戦力の増強が出来ませんから。先ずは、あと一日お待ちいただけませんか。そうして、ある一定の結果を生み出すことが出来るはずです」

「……ほんとうに?」


 科学者は何も言わなかった。

 それを見たリュージュのほうが先に折れた。


「……解ったわ。あと一日だけ時間を与えましょう。しかし、それでいい結果が得られなければ……その時は、覚えておくことね」


 小さく首を垂れたまま、科学者は何も言わなかった。

 リュージュは椅子から立ち上がると、バルト・イルファとともに部屋を出ていった。


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