第三十八話 決戦、リーガル城⑨
それから兵士が準備を終えるまで数瞬とかからなかった。ほんとうにあっという間に、「終わりました!」と言ってゴードンさんに向けて敬礼した。
それを確認したゴードンさんは頷いて、サリー先生に訊ねる。
「……よろしいのですね?」
「ええ。一つ、確認したい事があります。そのためにも、もう一度攻撃をしてもらうほかありません」
「了解しました。……おい、攻撃を開始しろ!」
即座に敬礼して、兵士は魔術を行使する。そして、数瞬の間をおいて、砲弾が撃ち放たれた。
砲弾――というのは説明としては間違いかもしれない。なぜならばその砲台から放たれたものはどちらかといえばレーザーに近いものだったからだ。レーザー、といえば科学技術の結晶に見えるかもしれないけれど、それはどうなのだろうか。案外、この世界の科学技術は発展しているのかもしれない。
「……やはり、そうだったのね」
双眼鏡でメタモルフォーズを見つめていたサリー先生は、そう言って僕たちのほうを向いた。
「……サリー先生、いったい何を見つけたというのですか?」
「一言、簡単に結論を述べましょうか」
サリー先生は歌うように言って、ゴードンさんの前に立った。
ゴードンさんは、彼のほうを睨みつけるサリー先生を見て、たじろいでしまう。
「な、何か解ったのであれば、教えていただきたいのですが……」
「あのメタモルフォーズはすべてまやかしよ。本物はどこか別に居る」
「何……だと?」
空に浮かぶ――こちらにやってくるメタモルフォーズの大群を指さして、
「なぜ私があなたたちにもう一度砲弾を撃ってほしい、と言ったかというと、これを確認したかったから。メタモルフォーズに命中したと思われるそれは、案の定命中したように見せかけただけだった。雲のようになっていた、とでも言えばいいでしょう」
「メタモルフォーズを操っている敵、ではなく……あれだけの量のメタモルフォーズが『居る』と見せかけた、ということですか?」
こくり。サリー先生は頷いた。
「成る程……。となると、それらを操っている敵を倒せば、あのメタモルフォーズの大群も消える、ということですね?」
「そうなるでしょう。……そして、その人間の見立てもすでについています」
「それは……いったい!」
ゴードンさんは鬼気迫る勢いでサリー先生に問いかけた。
「それは……」
指さしたその先には、一人の少女が立っていた。
そこに立っていたのは――ミシェラだった。
「……サリー先生、あなたはいったい何を……」
メアリーは疑問を投げかける。
しかし、それよりも早くサリー先生がミシェラのほうへと歩き出す。ミシェラはずっとサリー先生のほうを向いて、表情を変えることは無かった。
そしてミシェラとサリー先生が対面する。
「言いなさい。あなたは何が目的で、このようなことを?」
サリー先生の言葉に、ミシェラは答えない。
暫しの間、沈黙が場を包み込んだ。当たり前だが、このような間でもメタモルフォーズの大群は城へ向かって邁進し続けている。
沈黙を破ったのは、ミシェラのほうだった。
ニヒルな笑みを浮かべて、ミシェラは深い溜息を吐いた。
「……あーあ、まさかこんなにも早く判明してしまうなんてね。それにしても、あなたから出てくるそのオーラ、ただの学校の先生には見えないけれど」
「そんなことは今関係ないでしょう? 結果として、あなたはメタモルフォーズの大群を操っている……ということで間違いないのかしら」
「だとしたら、どうする?」
ミシェラはそういうと――消えた。
「消えた!?」
「いや、違う……。ここよ!」
しかし、サリー先生だけがその姿を捉えていた。
サリー先生の拳が、確かにミシェラの姿を捉えていたのだった。
「……くっ。まさか、人間風情に……!」
「人間だから、何だというの? そう簡単に倒せると思ったら、大間違いよ」
「貴様を逮捕する」
次いで、ゴードンさんがミシェラに近づいた。
「逮捕? そんなことは出来ないわ。するならば、それよりも早く――」
ミシェラはどこからか取り出したナイフを、自らの首に当てる。同時にミシェラはサリー先生の手から離れ、僕たちに見せつけるようにナイフに力をかけた。
「貴様、まさか――!」
サリー先生とゴードンさんがナイフを奪おうと、ミシェラのほうへ走っていく。
「フル・ヤタクミ。あなたはどういう未来を歩もうが、もう結論は見えている。この世界を救うなんてことはムリ。メタモルフォーズが世界を覆いつくす、その日は、そう遠くない!」
彼女は笑顔でそう言った。
その笑顔はとても臆病で、恐怖で、狡猾だった。
「……何を言っても、無駄だ。人間はメタモルフォーズには屈しない」
「そう言っていられるのも今のうちよ」
そうして、ゴードンさんがミシェラの前に立ったタイミングで――ミシェラは首を切り裂いたのか、彼女が横に倒れた。
なぜそれが断定出来なかったかと言えば、ゴードンさんが前に立っていて、その瞬間を見ることが出来なかったからだ。
もし、それを見ていたらきっと僕たちの心に何らかの傷を植え付けていたかもしれない。
ごとり、と何かが床に落ちる音――きっとその対象は、『首』だったのだろう――を聞いて、僕たちはゆっくりとそちらに近づく。
しかし、それをしようとしたタイミングで、サリー先生が僕たちの前に立ち塞がった。
「見ないほうがいい」
その言葉を口にしただけで、あとは何も言わなかった。
けれど僕たちも、不思議とそれ以上何も語ろうとはしなかった。




