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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二章 ハイダルク編
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第三十六話 決戦、リーガル城⑦


 はっきり言って、レイナのその発言を一言で示すとなれば、『自分勝手』の一言で収まると思う。だって、誰の意見も聞くことなく、対立していた人間と唐突に同盟を組もう、等と言い出すのだから。

 そんなこと、普通の人間だったらどうやってオーケイを出すことが出来るのか?

 きっと僕だったらオーケイを出さないかもしれないけれど――。


「ほんとうに、それを聞いたらモノを返してくれるというのね?」


 そう答えたのはメアリーだった。


「ああ、それは嘘を吐かないよ。私は嘘を吐かないことを信条にしているからね。それに、君たちこそ信じてくれているだろうね? もし、君たちがやだというのならば、私もこれを返すことに関しては否定的になるけれど」

「……おい、メアリー。ほんとうにいいのか?」

「何が?」


 僕はメアリーに問いかける。

 けれどメアリーは何も思っていない様子で、きょとんとした表情を浮かべて首を傾げた。

 きっとあまり気にしていないことなのだろう。


「……取り敢えず、交渉成立ということで。じゃあ、私はモノを返してあげる。だから、あなたたちのメンバーとともに旅をする、ってことでいいよね」


 そう言ってレイナは僕に近づくと、あるものを差し出した。

 それは僕から奪ったとみられる鍵とアピアルだった。


「……まだ足りないぞ」

「ああ。そうだったわね。ええと……」


 そうしてレイナはもう一つ、ほとんど忘れ去られていたかのような扱いだった銀時計を差し出した。


「これで一先ず解決……か? まあ、いろいろと語るべきポイントはあるけれど」


 ルーシーの言葉に僕は頷く。確かに、このような結末でゴードンさんたちが納得してくれるかどうか、それが一番のポイントだと思う。

 まあ、取り敢えず、決まってしまったことは仕方ない――そう思うと、僕は目を瞑った。



 ◇◇◇



 結局、ゴードンさんは僕たちに対して怒ることはしなかった。

 レイナに対しても、彼女がそう言ったのならば仕方がないとして、お咎めなしとなった。それが果たして今後どれだけの結果を生み出すのかは解らないけれど、一先ず僕たちはゆっくりと休むことにした。


「それにしても、旅はこれで終わりなのか……?」


 みんなが集まったところで、開口一番そう言ったのはルーシーだった。


「少なくとも、これで終わりでしょうね。世界の終わり、と言われていてもどのように世界が終わるかも解らないし、そうなればこのまま待機するだけじゃないかしら。大人がどうにかしてくれる、というか子供がどう転ぼうとも大人はそれを咎めるだけだから」


 ルーシーの問いに、現実的な解答を示すメアリー。

 しかしながら、お互いの言葉はまったく間違って等いなかった。

 しかしながら、それをそのまま認めるわけにもいかない。それは僕も思っていた。


「まあ、それについては明日考えることにしようよ」


 僕はそう言った。

 あくまでもその場を逃げるため――ではない。

 お互いに考えるための時間を設けるべく、そう言っただけに過ぎない。

 けれど、それがほんとうにどこまで出来るかは解らないけれど、とにかく、今の僕たちにとっては時間が必要だった。

 そしてそれについて否定する意見が無く、僕のその意見はそのまま受け入れられることになった。

 そうして、食事を終えて――僕たちはそれぞれに用意された部屋に入り、そして気が付けば僕たちは深い眠りについた。




 その夜。

 僕は夜空を見つめながら、記憶の川を遡っていた。

 中学時代、小学時代、幼稚園――記憶の川はそこまで遡っても、鮮明に思い浮かべることが出来る。

 しかし、やはりというか、予想通り、同じところで記憶の川はぷっつりと涸れていた。


「……どうして?」


 僕は誰にも聞こえないほど小さい声で、ぽつりとつぶやいた。

「どうして……これ以上、僕の記憶は遡れないんだ?」

 僕のつぶやきは誰にも聞こえない。そして、その質問は誰にもこたえることは出来ない。

 そう思って――そう結論付けて――僕は無理やり目を瞑ってどうにかして眠ろうと布団に深く潜っていった。


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