表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第五章 カミとヒト編
328/335

第三百二十四話 終わる世界③

「いずれにせよ、ガラムド。君の負けだ。これ以上、この世界を保存することは許されない。エネルギー的な問題もある。それに、いくつかあるサーバのうちまともなプログラミングが通ったのは、あの世界だけだ。それ以外は、悲しい世界だ。終わりを告げることの無い世界、それが君たちの通ってきた『シミュレート2047』。西暦二〇四七年のある日をもって人類が滅亡し、世界時計がリセットされる。まともに動いている世界はそこと、君たち……メアリー・ホープキンたちが過ごしてきた『シミュレート2015』だけだ」

「それはあなたが決めることじゃない。あの世界に生きる人たちが考えて、生きていくことよ。私たちは確かにサーバの管理権限を与えられている。その気になれば、全サーバを止めることだって、再起動することだって、簡単にできる。けれど、それは同時に器の消失にも繋がるし、あの世界で生存することすら不可能になる」

「君は気づいていないのだろう。……そりゃあ、そうだ。君は一万年以上、体感的にはあの電子空間に神様として存在したのだからね。でも、僕は違う。ずっとこのコントロールルームで無限にも近い時間を、管理者として過ごし続けた。君をどうやってこのコントロールルームへと連れて行くか、いつ計画を実行するかを考えていた。老人どもは、地球を再び自分たちのものにしたかったらしいけれど……はっきり言ってその考えは甘い。そして小さい。もっと大きい考えをしないと」


 ガラムドは絶句する。

 ようやくヤルダハオトが何をしでかそうとするのか――その一端を理解することができたからだ。


「あなた……今の世界を取り戻すだけじゃなく、神の箱庭すら掌握するつもりね? 天より墜ちた創造神ムーンリット・アートを殺す。それがあなたの目的」


 ヤルダハオトは笑みを浮かべ、そして小さく頭を垂れた。


「ああ、そうだよ。その通りだ。……君たちは何も考えちゃいない。人間のおろかな歴史を繰り返している。だから僕がやり直す。神を殺し、世界そのものをリセットする。今度こそ人間の間違った歴史を繰り返さないためにも……」

「間違った歴史、ですって? それは誰にだって評価できない事象よ。たとえそれが神であろうとも」

「いいや、君こそ間違っているんだ。君が、世界を守る神ならば、僕は世界を滅ぼそう。……それが世界のためならば!」


 そうして、ヤルダハオトはボタンを押下した。



 ◇◇◇



「そろそろ、一人語りはおしまいにしようじゃないか、古屋拓見」


 暗黒になっていた空間に、一つのスポットライトが当てられる。

 そこに居たのは、一人の男だった。

 僕は……彼を知らない。見たことも無い。けれど、どこかガラムドに似た、崇高な雰囲気を醸し出していることは、直ぐに理解できた。

 男は頷くと、


「僕のことは誰か、ということを理解しなくていいよ。今はね。少なくとも今は、理解する必要は無いし、順番が違う。まずは今の状況をどうにかして回復しなくてはならない。それは君だってわかるだろ?」

「そうだ。ヤルダハオトを止めないと……!」


 僕は周囲を見渡す。

 けれどその暗黒からの出口は見当たらない。いったいどうやって現実に戻ればいいというのか……。


「簡単だよ、古屋拓見。どうやって現実に回帰するのか。今は、君の存在が君自身によって不安定になっている。それを安定させればいい。君が君であるために、君は君自身の価値を確定させなくてはならない」

「僕自身の価値を、確定させる……」

「そう。君は人工知能かもしれない。君は定められたプログラムかもしれない。だから、どうしたっていうんだ。自我が芽生えれば、それは『命』だよ。命そのものだよ。だから、前を進め。前を見て、歩け。その先に、君が追い求める未来があるはずだよ」


 すると――僕の目の前に――正確には、その男の背後に一筋の光が見えてきた。

 それが出口であると気づくまでに、そう時間はかからなかった。


「さあ、進むがいい。その先に、君の、君たちの未来は待っている」

「あなたは、いったい……」


 男は、一笑に付して、言った。


「僕が誰かというのは、今は言わない方がいいだろう。けれど、僕は味方だよ。正確にはあの世界の観測者であり、別の世界の観測者であり、その世界の創造者であり、管理者であるけれどね。昔は補佐の役割だったが、彼女が力を使いすぎた関係で今は僕が代理でやっている」


 それだけを聞くと、神様のようにも思える。

 いいや、きっと彼は神様なのだ。

 だから僕は笑みを浮かべ頭を下げると、その光に向かって走り出した。


「ありがとうございました! 僕は、もう迷いません!」

「……そうだな。一つだけ質問させてくれ。少年。世界は面白いかい?」


 立ち止まり、答える。

 その間は、一瞬も無かった。


「当然ですよ!」


 そして、僕は再び光に目がけて走り出す――!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ