第三百七話 聖戦、東京⑰
今度はこちらのターンだ。
ロマが防御をし、バルト・イルファとメアリーで攻撃を開始する。
「貴様に、この世界を破壊させてなるものか!」
バルト・イルファは炎の玉を放つ。
それに併せて、メアリーはシルフェの杖をトン! と床に叩き付ける。刹那、床から柱がせり上がり、それがヤルダハオトへと走って行く。
「ちょこまかと……人間風情が!」
しかし。
ヤルダハオトはそう簡単に倒せる相手ではなかった。
ヤルダハオトが右手に構えたシルフェの剣を一振りすると、炎の玉と土の柱が同時に破砕した。
「やはり、そう簡単にはやられてくれないか!」
バルト・イルファが舌打ちをしながら、次の策を練る。
「……神が人間に跪くとでも思ったかああああああああああああああああ!!!!!」
左手に構えた魔剣フランベルジェを一振り。
今度は邪悪に満ちた波動がメアリーたちに襲いかかる。
「まずいっ!!」
しかし、その波動がバルト・イルファとメアリーに来る前に、水で出来た盾が彼らの前に飛びかかってきた。
「ロマ!」
「お兄様、ご無事ですか!」
バルト・イルファはロマの言葉に無言で頷く。
「ふん。この程度の攻撃でやられてもらっては困るのだよ。私の相手をするにはな!」
「メアリー・ホープキン! どうやら、あの剣、片方が防御、片方が攻撃を為しているようだ」
メアリーに近づき、バルト・イルファは告げる。
それはメアリーも実感していた。シルフェの剣を振った時は防御の盾が出現し、魔剣フランベルジェ――メアリーたちがその名前を知っていることは無いが――を振った時は攻撃を放っている。
つまり、それぞれの剣には役割があるのではないか、ということ。
メアリーは考えていた。しかし、それを分かったところでどうすれば良いか――それが問題だった。
「つまり……だ。僕の仮説が正しければ、シルフェの剣を奴の手から放せば、奴は防御が出来なくなるはずだ」
「……それはそうでしょうね。けれど、どうやってあの剣を放させるつもり?」
「僕も無策で言うわけがないさ。メアリー・ホープキン、少し時間稼ぎを頼めないか? その間、僕がどうにかしてシルフェの剣をあいつの手から解き放つ!」
「……分かった。あなたに従うわ。如何すれば良い?」
「やり方は任せる。……それじゃ、行くぞ!」
「猪口才な!」
再度、ヤルダハオトが魔剣フランベルジェを一振りする。
そして放たれるは邪悪の波動。それを何とか遮ろうと、メアリーも対抗してシルフェの杖を使って壁を生み出す。
しかし所詮壁は壁の役割しか果たさない。逃げ切れるはずが無い。抑えきれるはずがない。そんなことを考えては――いけなかった。
何故なら力を生み出すそのもの――エーテルは人間の精神力を糧とする。とどのつまりその糧である精神が弱ってしまえば、エーテルも少なくなる。となると――答えは自明だ。たとえ、知恵の木の実やシルフェの杖の補助効果があったとしても元々の術師のエネルギーが枯渇してしまえば元も子もない。
「……はっはっはっは! 何か作戦を考えていたようだったが!? 結局は、時間稼ぎだけか。守るだけか! 何が出来るというのか! 人間風情に! ただ力を身につけて、それを使いこなすことも出来ない人間のくせに、神に逆らおうということ、それ自体が言語道断! この世界もろとも滅んでしまえば良いのだ!!」
何度も。何度も。何度も。
魔剣フランベルジェによる攻撃は矢継ぎ早に続けられる。
しかし、その都度にメアリーは壁を作り出し――あまりにも間に合わない時は、ロマもサポートをして水の壁を作り上げ、二層の壁を常にキープする形となっていた。
ズガッ! ズガッ! ズガッ!
何度も。何度も。何度も。
攻撃は繰り広げられ、盾は破壊されていく。
「人間のエネルギーは有限だ。無限であるはずがない! 対して私のエネルギーは、無限に等しい! お前達に何が出来ると言えよう! さっさと降参してしまうのがお前達に残された手段、ただそれだけだ!」
「果たしてそうかな」
ヤルダハオトの腕が止まった。
バルト・イルファの声はヤルダハオトの背後から聞こえた。
ヤルダハオトはゆっくりと振り返る。
そこにはにやりと笑みを浮かべたバルト・イルファが火球を携えて準備していた。
「さて……全知全能の神様ならば簡単に分かる問題を一つ出してやろうか」
一息。
「ロマ! 水の球をこちらに放て! メアリー・ホープキン、雷雲を作ることは可能だろうな! 不可能とは言わせないぞ!」
「出来ないわけ無いじゃない!」
「勿論です、お兄様!」
メアリーは雷雲を。
ロマは水球を。
それぞれ生み出した後でも、なおもヤルダハオトは表情は崩さなかった。
「……何をしたがっているかは分からないが、人間に出来ることは神を超越することなど不可能だ!」
「問題は続いているぞ、ヤルダハオト」
ヤルダハオトの言葉に答えず、バルト・イルファの話は続く。
水球に雷が当たり、水球は消滅する。……いや、正確に言えば。
「確か水は電気分解をすると、酸素と水素に分解されるんだったな。水素は非常に燃えやすい性質を持っている。……では、この火球を当てると?」
漸く、ヤルダハオトは事実に気付いたらしい。
「貴様あああああああああああ!!!!」
「人間と人間により作り出されたメタモルフォーズの底力、身をもって実感するがいい、神ヤルダハオトおおおおおおおおお!!!!」
そして。
バルト・イルファの放った火球によって、ヤルダハオトの周囲に大爆発が起きた。




