第三十話 決戦、リーガル城①
リーガル城。
ハイダルクの首都にある城であり、その城下町のことを言う。
そして僕たちはゴードンさんに連れられて、王の間、その入り口へとたどり着いた。
階段を上った先にあったその入り口の両脇には兵士が立っていて、それぞれ守っているようだった。しかしながら彼らはゴードンさんよりも階級が低いためか、ゴードンさんを見かけるや否や敬礼をした。
「ここが王の間です。どうか、粗相のないように」
そう言って、ゴードンさんは立ち止まる。
どうやら、僕たちだけで王の間に入れ――ということらしい。
「……」
そして、僕たちはゆっくりと王の間へと、足を踏み入れていった。
扉の中は広々とした空間だった。松明の光で明るくなっているとはいえ、あまり日が入らないためか若干暗い部屋になっている。そして、王の頭上にあるステンドグラスから殆どの光が入っているようだった。ステンドグラスには林檎を抱えた女性が描かれていて――。
「フル・ヤタクミ、ルーシー・アドバリー、メアリー・ホープキン……か」
「はい」
王様の前では、その一言しかいうことが出来なかった。
王様は思ったよりも若々しかった。僕と見た目が変わらないくらい、年齢が同じなのではないかと――そう思ってしまうほどだった。
「そう固くしなくてもよい。楽にしたまえ。ラドームから話は聞いているよ。なんでもフル、おぬしが『予言の勇者』である、と……」
王様の隣には、禿げ頭の大臣と思われる人間が居た。
若い国王の補佐――とでも言えばいいだろうか。国王の表情を窺いながら、僕たちを監視するように睨みつけている。
「陛下。いかがなさいますか? 予言の勇者一行をハイダルクで保護する、ということになるのでしたら……」
「むろん、そのつもりだよ。しかしどこが空いていたかな。城下町の宿屋では、正直警護が完全に確保しづらい。となれば、やはり城の部屋になるか……」
「しかし城の部屋は埋まっているのでは? 兵士たちの居る寮ならば、空いているかもしれませんが」
「そこで良いだろう。何かあったとき、すぐに兵士たちが対応できる」
国王と大臣の短い会話を経て、国王は改めて僕たちのほうを向いた。
「……おっと、放置して済まなかったな。場所も決まったことだ。先ずは君たちを部屋に案内しよう。そして、明るいうちにこの町を案内させよう。案内は、ゴードンに任せることにするか」
云々と頷いて、国王は言った。
ゴードンさんに連れられて、僕たちは部屋に到着した。場所は国王が言っていた通り、兵士たちの宿舎の中にあり、すれ違う兵士たちに毎回敬礼されるというのは、少々こそばゆい気分にもなった。
部屋は二つ。男女でちょうど二人ずつになっているので、男女で分かれるほうが賢明だった。そして荷物を置いて、少し休憩してから僕たちは町へ繰り出すことになった。
城と町を結ぶ橋を、今度は歩いて渡り、城下町へと到着した。
「リーガル城の城下町は東西南北、四つのエリアに分かれている。商業、娯楽、住居、自然の分割になっていて、大抵そのエリア分割で成り立っている。ここは商業エリア。だから店も人も多い。住居エリアや自然エリアに行けば、もっと人は少なくなるし静かになる。……まあ、そんなことはどうでもいいことではあるが」
「どうしてそうエリアを分割したのでしょうか?」
ゴードンの説明に、最初に質問を入れたのはメアリーだった。
ゴードンは顎に手を当てて首を傾げ、
「ううむ、それはあまり解らないのだよ。何せ随分と昔からこのルールが適用されているものだからね。しかし、これによって税率を決定することが出来るようになったから、もしかしたら国民のことよりも国政のことを思って計画されたものなのかもしれないな」
成る程。
確かにそれならばエリアごとに政治体制を変えていけば簡単に政治を行うことが出来る。頭のいいやり方だったかもしれない。けれど、それはきっと僕の居た元の世界では当然できることではないと思うけれど。
それにしても、この道はとても広かった。馬車が通っても全然邪魔にならないほどだったことを考慮すればそれは当然のことだったし、そもそもこの道自体が城から入口までずっと真っ直ぐな道なので特別な道だということは理解できることだし、それによってこのような広さが維持されているのだと思うと納得できる。
「この町は美味しいモノが集まっている、グルメな町とも言われている。どうだい? 何か食べてみる、というのは。今は食べ歩きがこの町のトレンドになっているんだ」
ゴードンさんはそう言って、僕たちに提案した。
ちょうど僕たちもお腹が空いていたところだった――そう考えていた僕たちに、イエス以外の解答は有り得なかった。
それにしてもこの世界での食べ物って、どうして元の世界のそれと変わらないのだろうか。
今僕が食べているのは焼きそば。名前こそ違っているが、味はほぼ変わらない。さすがにレシピまでは教えてくれなかったが、キャベツにベーコンに、味付けにはソースを使っているはずだ。……もしかして異世界でも焼きそばがブームなのか?
そんなバカな、というセルフツッコミを入れて、僕は考えるのをやめた。
ちなみにこの道はとてもきれいだ。きれい、というのはゴミが落ちていない――ということである。けっこう目につく距離にゴミ箱が設置されているためだ。しかし、ゴミ箱が設置されているだけで人がゴミを捨てるかと言われるとそうではない。『ゴミ箱があるからゴミを拾おう』という価値観が確立されていない限り、そんなことは出来ない。




