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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第四章 邪神ヤルダハオト編
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第三百三話 聖戦、東京⑬

「……記憶を、失う」


 僕はメアリーの言葉を反芻した。

 確かに疑問には思っていた。記憶は徐々に失われていく。しかし魔法のエネルギーはどこから生み出されていくのか僕には分からなかった。最初は予言の勇者だから何か特別な力でもあるのかと思っていたけれど、それは単なる間違いであって、結局の所有限のエネルギーに過ぎなかった、ということだ。

 メアリーの話は続く。


「……まあ、ね。結局の所、私としてはあまりあなたの魔法を使いたくない。出来ることなら、最後の切り札として取っておきたいというところかしらね。記憶エネルギーが枯渇する可能性もあるし、ガラムドの魔導書に書かれた魔法はどれも強力な魔法だからね」

「メアリー・ホープキン。君の言いたい話は分かる」


 ここで話者はバルト・イルファに移る。


「しかしどうすれば良い? 最後の切り札としてフル・ヤタクミの魔法を使うとして、リュージュの城塞に何も対策がされていないとは限らないだろう。それとも、シルフェの剣だけでどうにかするつもりか?」

「だったらフルの分まで私が戦うわ」


 メアリーはポケットからあるものを取り出した。

 それは黄金に輝く果実――知恵の木の実だった。


「ほう、成程ね。知恵の木の実を持っているとは想定外だった。それを使えば、確かにエネルギー不足は解消されるだろうね。……一応確認しておくけれど、フル・ヤタクミはそれを使うことは出来ないのだよね?」

「ええ。恐らくエーテルの変換能力が備わっていないからだと思う。知恵の木の実はこの世界の記憶が長い年月を経てエーテルへと化した、その凝縮された物質。そうしてそれをエーテルから魔法エネルギーへ変換することで魔法を放つ源となる。エーテルの源である知恵の木の実を、変換機構を有さないフルが使うことは不可能ね」

「……成程。ならば致し方ない話だ。しかし、メアリー・ホープキン。君ならフル・ヤタクミの火力不足を補えるというのか?」

「多少ならば、ね」


 それを聞いたバルト・イルファは失笑する。


「ならば、試してみようじゃないか。メアリー・ホープキン。……リュージュの娘よ。お前の力と僕の力でどこまで行けるのかを!」


 ホバークラフトは上昇を続ける。

 その先にあるリュージュの城塞を目指して。



 ◇◇◇



「リュージュ様。こちらに近づく物体を検知。……分析から、恐らく我々の世界と同じ物質から構成されているものであると考えます」

「成程。ということは……やってきたわね。予言の勇者が。丁重に扱いなさい。彼は『器』よ」


 ロマの言葉を聞き、リュージュは答える。

 そしてロマは小さく頭を垂れて、そのまま部屋を後にした。

 リュージュは誰も居なくなった部屋で笑みを浮かべながら、独りごちる。


「こうして『器』と『剣』が揃った。あとは、あなたの世界を、楽園に干渉するだけよ。ムーンリット……そしてヤルダバオト」



 ◇◇◇



 リュージュの要塞は薄紫色の薄膜で覆われていた。薄膜、と表現はしたが、恐らくそれは障壁の一種でそう簡単にはくぐり抜けることはできないだろう、というのが僕らの共通認識だった。


「いけえ!」


 バルト・イルファの右手から炎の拳が撃ち放たれる。炎で出来たその拳は障壁に激突すると、そのまま大きく音を立てて霧散した。


「ならば……これなら!」


 メアリーは知恵の木の実に手を当てると、その後錬成陣が描かれた紙を両手で挟む。

 紙を広げた後、それを空中へと落とすと、そこから巨大な腕が姿を見せた。

 腕はそのまま障壁へと命中するが、しかしバルト・イルファの放った炎の拳と同じく大きく音を立てた後は崩れ去るばかりだった。


「やはり一筋縄ではいかないようだな……! フル・ヤタクミ、そのまま運転を続けていろよ!」

「分かっている!」


 僕はというと魔法を封印された今、ホバークラフトをいかに安定させて操縦するかしか出来なかった。

 そもそもホバークラフトはそんな高いところを飛べないような気がしたが……いや、余りその辺りを気にしたら負けなのかもしれない。あの世界の技術は変なところでこの世界よりも進歩している点が多かったし、それもその一つなのだろう。

 メアリーとバルト・イルファがさらに追撃をしようとしたそのとき、


『止めなさい。無駄な攻撃は。力の疲弊を継続するだけに過ぎません』


 声が響いた。

 脳内に直接、声が響いた。


「……聞こえた?」


 僕はメアリーとバルト・イルファに問いかける。

 二人は無言で頷く。


『無駄な攻撃を止めなさい。あなたたちは、この障壁を破壊することは出来ない』

「その声は……。ロマ、ロマなのか!」


 声の主にいち早く気がついたのはバルト・イルファだった。やはり兄妹だから――なのだろうか。妹であるロマの声は分かりやすかったようだ。


『お兄様。やはり未だ生きていたのですね。良かった』

「ロマも未だ生きているとはね。それもリュージュとともに居るとは。心中でもするつもりかい?」

『お兄様ともあろうお方が創造主であるリュージュ様に逆らうなんて』

「創造主? 神をも愚弄した存在じゃないか。贖罪するべきは人間じゃない、彼女だ」


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