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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二章 ハイダルク編
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第二十九話 エルフの隠れ里⑦

「……人命を蘇生させる魔法、よね」


 こくり、とリュージュは頷く。


「そう。そして、面白いことにその魔法は人間以外にも適用される。それは封印された、伝説のメタモルフォーズにだって……」

「やはり、それが目的なのね」


 サリーの目線が冷たく突き刺さる。

 しかし、そんなことリュージュには関係なかった。


「……オリジナルフォーズを復活させれば、世界を滅ぼすことだって、世界を管理することだって簡単にできる。だって、そうでしょう?」

「世界を滅ぼすことで……、何を生み出すというの? 何も生み出さない。それは無駄なことでしょう?」

「世界を滅ぼすことは簡単だ。その魔法を使ってオリジナルフォーズさえ復活させればいいのだから。そして、世界を滅ぼした後は新しい世界を生み出す。これぞ、テーラの予言を実現させたといえるのではないかしら?」


 それを聞いて、サリーは溜息を吐く。

 サリーは持っていた杖をリュージュに向けて、


「話し合いで解決するとは到底思えなかったけれど……、まさかこんな結末になるとはね」

「私を脅しても無駄よ。禁断の魔術が書かれた魔導書は、私の先祖によって封印されたのだから」

「封印……テーラめ、まさかそのようなことをしていたとは……!」


 リュージュは深い溜息を吐いたのち、指を弾いた。

 それと同時に、彼女の隣にバルト・イルファが出現した。


「やっほー。リュージュ様、いったい何をすればいいの?」

「この魔術師を殺しなさい。ああ、一応言っておくけれど手練れよ。そう簡単に倒せるものじゃない」

「なんか弱そうだけれど?」

「ルイスを殺したのは、この魔術師よ。そう言えば、あなたも少しは働く気になるかしら?」


 それを聞いて、バルト・イルファは笑みを浮かべる。

 今まで興味を抱かなかったのが、その事実を聞いて興味を持ったらしい。


「成る程ね……。ルイスを殺したのは、お前だったのか。だったらちょっとは興味を持ったかな」


 そう言って、バルト・イルファは手から炎を出した。出した炎は何かの形に形成されていき、最終的にそれは剣の形となった。

 炎の剣を構えて、バルト・イルファは言った。


「さて――どうなるか、試してみようかな。せめて僕を楽しませておくれよ?」

「そう余裕を言っているのも、今のうちかもしれないわよ?」


 そうして、バルト・イルファとサリーの戦闘が始まった。



 ◇◇◇



 気が付けば、僕は白い空間の中に居た。

 そしてそこには一筋の川が流れていた。

 そこに流れていたものは、記憶。

 森の獅子との戦闘。

 船が爆発して海に放り出されたこと。

 トライヤムチェン族の集落での戦闘。

 ラドーム学院での日常。

 ゲーム屋での出来事。

 色んなことが、記憶の川を遡ると見えてくる。自分でも『こんなことがあったのか』と思うくらいだ。

 記憶の川は、さらに遡ることが出来る。

 これから青春を送ると思われた高校時代。

 何事もなく、一言でいえば真っ白な中学時代。

 小学時代は何も知らずにひたすら騒いでいた。

 幼稚園のころなんてもっとそうだった――と思う。


「……意外と覚えているものなんだな」


 僕はそんなことを独り言ちった。

 幼稚園に入園する前の自分は、自分で言うことではないけれど、とても可愛らしい。

 しかし、そこで唐突に記憶の川は涸れていた。


「……あれ?」


 おかしい。

 そんなところで記憶の川が涸れるはずが無かった。

 だって、そこからさらに遡って――『生まれる』という記憶が残っているはず。

 けれど、記憶の川はここで終わっている。

 自分は母親から生まれた、という『記録』は当然残っている。

 けれど、『記憶』が残っていない。


「いったい、どういうことなんだろう……」

『フル…………!』


 そこで、声が聞こえた。

 記憶とは別の場所からの呼びかけだった。





 身体がゆすぶられて、僕はそこで目を覚ました。


「フル、フル! 起きて!」

「え……何……?」


 見ると、メアリーが僕の身体を揺すって起こしてくれたのだと気付いた。


「もうすぐ城に着くよ。城に着いたら王様に謁見するから、きちんと眠気を覚ましておいてね」

「……ああ、解ったよ」


 僕は目をこすりながら、馬車から外を見る。

 どうやらもうリーガル城下に入っているようで、多種多様の店が軒先を並べ、人があふれていた。リーガル城は円形に形成されており、外殻に城下町が構成されている。内殻にある城と外殻にある城下町の間は堀があり、それを超えるために二つの橋が架けられている。しかしその橋も夜間になると閉められる――これはメアリーから聞いた基礎知識であって、僕はそれ以上のことは知らないのだけれど。


「フルは、リーガル城に来たことがないの?」


 ミシェラの問いに僕は言葉を返す。


「そう言うからにはミシェラは来たことがあるのか?」

「城下町には数回ね。娼館は出張サービスもやっているから。さすがに城が近い場所だと警備も厳しいからあまり出来ないけれど、入口そばとかだと案外客が多いのよね」


 溜息を吐いて、ミシェラは外を眺めた。

 どうやら彼女にも彼女なりの思い出があるようだった。

 橋を渡り、大きな門がゆっくりと開かれていく。

 僕たちは、馬車に乗ったままリーガル城へと入っていった。



 ◇◇◇



 燃えていくラドーム学院を眺めながら、リュージュは歩いていた。


「……まさか簡単に逃げられてしまうとはね」

「擬態魔法を使うなんて、やっぱりテーラの子孫なだけはあるよね。いや、もしくは学校の先生だったから?」


 バルト・イルファは両手を頭の後ろに回して組み、笑いながらそう言った。


「あなたがさっさと倒さなかったからよ」

「だって逃げるんだもん。素早い、と言ったほうが正しいかな? まさかあそこまで逃げ足が速いとは思いもしなかったし」

「……まあ、それは確かね。もしかしたら最初から逃げる目的だったのかも」

「これからどうするの? だって、魔導書を探さないといけないんでしょ?」

「……それもそうねえ。確かに探さないといけないのだけれど、場所の見当がつかないと無理だし……。一先ず戻ることにするわ。あなたは?」

「僕も戻るよ。だってもう面白いことは無くなってしまったし」


 そうね、とリュージュは言って右手を天に掲げた。

 そしてリュージュたち二人の周りに自動的に円が描かれて、それが緑色の光を放つ。

 それが消えたと同時に、リュージュたちの姿も――消えた。


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