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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第四章 邪神ヤルダハオト編
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第二百九十五話 聖戦、東京⑤

「……試しているのかどうか知らないけどさ、バルト・イルファ」


 僕はバルト・イルファの言動が気に入らなかった。

 その、どっちか選べとかいう高尚な考え。それはいったい誰が決めたというんだ? そんな考えに当てはめられるほど、僕は常識に囚われてなどいない。少なくとも、そう思っている。


「……なんだい? 先程の選択肢に、何か不満があるように見えるけれど」

「無いと思っていたのかよ。僕は、お前にずっと旅をしてきた仲間を殺すか救うかという選択肢に立たされているんだぞ?」

「ならば答えはたった一つしか無いのではないかな? 未だ君があれをルーシー・アドバリーと言い張るのであれば」

「……ルーシーと言い張るのであれば?」


 言葉を反芻する。

 正直なところ、いま飛んでいるあれはルーシーとは姿形も違うものとなっている。きっと彼のことを知っていても、一目であれが彼であると分かる人はいないだろう。

 面影が無いからと言っても、ルーシーはルーシーだ。僕たちと旅をして、共にリュージュを倒すために奔走した仲間だ。

 ルーシーを助けたい。

 ルーシーを救いたい。

 そのために僕たちは何をするべきか?

 そのために、僕たちはどうしなければならないか。


「君がそれを救うか、救わないか。それによって僕たちの行動も考えざるを得ない、ということだよ」

「バルト・イルファ……、相変わらず君の考えは両極端だ」


 だが、合理的だ。

 現状、自分たちが行動出来る選択は限られている中で、一番理想的なルートを構築し、実行する。

 それが今のリーダーたる僕の役割であるし、導くべきだと思う。


「でも、世界は、世界としては……」

「世界だろうが、何だろうが、どうだっていいだろう? フル・ヤタクミ。要するに、君がどう選択するか、だ」

「分かっている、分かっているが……!」


 でも、バルト・イルファの言葉に、直ぐに答えることなど出来るはずがない。

 出来るのならば、僕はとっくにこの世界を救っている。

 僕は愚かだ。

 愚かな人間なのに――預言の勇者としてこの世界を救うべき存在として成り立っている。

 それは間違っているのか? それは正しい選択なのか?

 誰かが勝手に組み込んだプログラムの一つでしかない。強いていえば、ロールプレイの一つではないのか?


「おい、フル・ヤタクミ。一人の世界に迷い込むな。未だお前にはやるべきことがあるだろう?」


 バルト・イルファの声に呼び戻され、僕は前を向く。

 目の前にある異形と、それに取り込まれてしまったルーシー。

 それらを『救う』ためには如何すれば良いのか。

 ほんとうに、預言の勇者の力――それによって救済することが可能だというのか。

 少なくとも今の僕にはそれが理解できない。それを実現出来るかわからない。


「フル。思い悩んじゃ、だめ」


 僕に救いの手を差し伸べたのは、メアリーだった。


「メアリー……」


 そのときの僕は、メアリーが女神のような存在に思えた。

 冗談ではなくて、単純に本気で。

 それくらい困憊していたと言ってもいいかもしれない。


「メアリー……、君はどう考える?」

「どう、考える、って」


 メアリーは困惑していた。

 或いは、当然かもしれない。だって急にそんなことを言われてしまえば、問われてしまえば、僕だって困惑する。僕だって、当惑する。

 大きな問題としては二つ。

 オリジナルフォーズをどうするか。

 そして、ルーシーをどうするか。

 結局の所、その二つの問題は、同時にクリア出来そうなものだけれど、存外、クリア出来そうなものではない。


「私は、フルのやることに従うよ」


 メアリーは、ゆっくりと頷いて、僕の質問に答えた。

 それは有難かったようで、迷惑な言葉だったと言えるだろう。

 良く言えば僕のことを信頼していて、悪く言えば僕にすべてを丸投げしたと言ってもいい。

 丸投げ。

 とどのつまり、それは責任もすべて背負うことになる。それははっきり言ってとっても面倒だ。だからといってそれすらもやらないのは無責任だ。しかして僕は考える。それがほんとうに正しいことなのか、と。すべてを丸投げされたから、それを背負わなくてはならないのか。すべてを丸投げされたから、それを受け入れなくてはならないのか。

 否。

 受け入れなくてはならないという理由にはならないけれど、だからといって、やらないという理由にもなるはずがない。

 僕は、世界を救う。

 そのためには、オリジナルフォーズを倒さなくてはならない。


「オリジナルフォーズを倒すこと。それはそう簡単なことではない。それはきっと、フル・ヤタクミ、君にも分かっていることだと思うのだが」


 バルト・イルファはそう言い切って、僕の前に立つ。

 それは僕の前に立ちふさがる障壁であるかの如く。

 それは今まで旅をし続けてきた僕に向けた試練であるかの如く。

 バルト・イルファの言葉は、僕に重くのしかかる。


「バルト・イルファ。僕は……」

「お前がどう進むのかは、どうだっていい。世界が滅びようが、滅びまいが。今の僕にもどうだっていいことだからだ」


 僕の言葉を遮るように、話を続ける。

 バルト・イルファは漸くここで意志を示してくれた。

 今まではそんなことなかったのに。

 バルト・イルファは、僕に意志を示してくれた。


「……だが、ロマがあちらにいる。ロマだけはなんとかしたい。そのためには……リュージュの野望を阻止しなければならないだろう。リュージュの野望を阻止する、ということは」


 即ち、オリジナルフォーズを倒すということに繋がる。

 結果的には、バルト・イルファも僕たちも、同じ目的に帰結するということなのだ。

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