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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第四章 邪神ヤルダハオト編
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第二百九十二話 聖戦、東京②

 自己完結。

 それがどれほど凄いものなのか、と言えば至極簡単であり至極当然のことだった。

 普通、どのような存在であったとしてもエネルギーを生み出すためには『源』が必要である。人間が食事をとるように、植物が光合成をするように。それが自然の摂理であり、それが今までのデファクトスタンダードだった。

 しかし、X……オリジナルフォーズは違う。

 オリジナルフォーズは元からエネルギーを限りなく生み出すことが出来て、それを使いこなすことが出来る。厳密には表現が違うが、永久機関そのものと言えるだろう。


「……いかがなさいますか。既にアメリカは動き始めており、先程国務長官から連絡がありました。排除に協力するかわりに、研究結果の公表とXの一部を被験体として渡すよう要求したそうです」

「相変わらず、強欲の国だ」


 総理は溜息をついて、背もたれに身体を預ける。


「では、無視なさいますか?」

「いいや。そんなことが出来る立場ではない。だからと言って言いなりにはなりたくないな。……ううむ、少し考えると言っておけ。今はともかく時間を稼ぎたい」


 アメリカも恐らく何処からか『自己完結たる存在』の情報を掴んだのだろう。しかしながらそれが確定的ではない現状、研究を行うためには被験体を『所持』しているこの国に協力を仰ぐしかない。そのためには手土産が必要だ。


「……きっと、アメリカはその先にある利益を考えているんだろう。私たちが何処まで調べ上げているか見当がついているかどうかは別として、だ」


 秘書が居なくなってから、総理は独りごちる。

 しかして彼の考えもまた見当がついていないから予想しているだけに過ぎず、結局のところどうすれば良いか彼自身も悩んでいた。


「ならば我が国としてやらなくてはいけないこと」


 それは、長期的思考ではなく、短期的思考。

 この国を他の国に荒らされないために考えついた、アイディアだった。


「短期決戦だ。……我が国が進むには、それしかない」


 そうして、国民が知らないところで物事は進んでいく。

 それは国民が知る必要もないこの国の暗部であり、決して公文書に残ることのない時間だった。



 ◇◇◇



 オリジナルフォーズに空から近付いていく戦法をとった僕たちは、近付いていくにつれて、オリジナルフォーズが何をしているのかより鮮明に見えてきた。

 一言で言ってしまえば、オリジナルフォーズは何かを空気中に吐き出し続けていた。白のような透明のようなそれは、液体ではなく気体だった。正確には、液体だったものが空気に触れて気化している、と言ったほうが正しいのかもしれない。だからこそ煙のような反応が出ている、という説明がつく。


「……なんだ、これは。いったいなんなんだ……!」


 初めに言い放ったのは、バルト・イルファだった。

 そもそも、僕以外の人たちにとってみればこの世界自体が『異世界』だ。ともなれば、この高層ビル群を見るだけで、違和感を覚えるに違いない。

 あの世界を『魔術至上主義』という単語で示すならば、この世界は『科学至上主義』といえるだろう。魔術なんて空想無形な概念は淘汰された世界、それがこの世界だ。

 ともあれ、科学至上主義たるこの世界が今は魔術に淘汰されつつある現状は、僕にとっても驚きを隠せなかった。だって、考えてみれば分かる話なのだけれど、魔術というこの世界には存在し得ないパーツが、それに相反する科学を信奉する世界に一雫垂らしただけで、世界を崩壊に陥らせているのだ。それを驚かなくて、何を驚けというのだろうか。


「……どうして、こんなことになってしまったんだ」


 思わず僕はそんなことを呟いてしまった。


「きっと、この世界は別の世界よ」


 言い放ったのはメアリーだった。

 彼女は震える口で、ゆっくりと話を続けた。


「多分、多分だけれど、この世界はフルの居た世界ということは……私たちの暮らしていた世界とは別の世界。世界と世界とは理が違うはず。だからその世界には無かったものがこの世界に持ち込まれたとき、この世界にあるものに『適用』されていくのではないかしら?」

「……メアリー・ホープキン。お前はいったい何を言っているんだ?」

「バルト・イルファ。あなたなら分かってくれると思ったのだけれど。案外あなたも頭が硬いのね」


 メアリーは、何故かバルト・イルファを嘲笑する。


「だから」


 バルト・イルファはさらに話を進めようとしたが、それをメアリーは言葉で遮った。


「人の話は最後まで聞きなさい、バルト・イルファ。あなたが気になる気持ちも分かるけれど、先ずは順序だてしていかないと何も始まりはしない」

「……だが、メアリー・ホープキン」

「だがもへったくれもない。先ずは私の話を聞きなさい。話はそれから。……ええと、話というよりかは質問になるかもしれないけれど、そこから話してあげる」


 メアリーは踵を返すと、僕の方に向いた。


「……見た感じ、倒れている人が多いように見えない?」

「…………え?」


 僕はメアリーの言葉を聞き、辺りを見渡してみる。

 オリジナルフォーズは完全に地上に落下していた。だからその影響は甚大なはずだった。

 しかしよく見てみると、摩天楼の破壊は僅かに過ぎない。いや、もっといえばあれほどの質量を持つ『物体』が落下したのだから影響がこれ以上に出ていてもおかしくはないはずなのだが……。


「気付いたかしら?」


 メアリーはニヒルな笑みで僕に問いかける。そうしてこれは僕を試しているのだと、確信できた。

 僕は考える。

 なぜオリジナルフォーズが落下したあとは、非常に僅かなものしか残っていないのか。

 僕は考える。

 そもそもオリジナルフォーズが落下したという事実はどうやって断言できるのか。

 僕は考える。

 僕は考える。

 僕は、ゆっくりと考える。


「……気付かないようならば、教えてあげても良いけれど」

「いいや。それは良い。出来る限り自分で考えさせてくれ。話はそれからだ」


 メアリーの助け舟を拒否し、なおも考え続ける。

 きっとメアリーが言っていることは、間違いなく『それ』なのだろう……と。

 そうして僕は、漸く一つの結論を導いた。


「……オリジナルフォーズは、まだ落下しきっていない……ということか?」

「その通り。オリジナルフォーズはきっとまだ落下しきっていない。しかし高台など、一部の場所については対応しきれておらず、オリジナルフォーズが落下しているかもしれない。けれど、未だにオリジナルフォーズは落下しきっておらず、未だ落下の行動を取り続けている、ということになる」

「落下しきれていないとして、どうしてあの区々が壊れていないのか?」

「……まさか?」


 メアリーは一歩二歩進めて、眼を細める。僕を見つめて、首を傾げる。

 メアリーの仕草は、少女のそれだった。今のメアリーは十年経過して、どちらかといえば大人びた雰囲気ではあるのだけれど(そもそも、もともとの頃から大人びた雰囲気は放っていた)、今のメアリーはあの頃のメアリーですらあまり見せることの無かった一面だった。僕はそれがとても珍しいと思うし、恥ずかしいと思うし、羨ましいと思えた。


「……フル。どうかした? 考えすぎて頭がショートした? ……それならそれでクールダウンの時間を設けるけれど」


 メアリーの言葉で我に返る。

 僕が考えた結論は、きっとメアリーも考えついていたことに違いない。

 そう思って――勝手に思い込んでいるだけれど――僕は言い放った。


「オリジナルフォーズは今もまだ浮いている。そして……オリジナルフォーズは、膨大に生み出すことの出来るエネルギーを吐き出している。そしてそのエネルギーは、恐らくだけれど、この世界に悪い影響を与えているのだと、思う。だから、」


 だから人は多く死んでいる。

 僕は――そう結論づけた。

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