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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第四章 邪神ヤルダハオト編
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第二百八十八話 死と新生⑫

 地上。

 未だに僕とバルト・イルファはどうやって空へと向かうべきか――それを延々と考えていた。とはいえ、少しは何か浮かんでくるものかと思っていたけれど、ところがどっこい。案外浮かんでこないものだったり、するわけだ。ほんとうはもう少し頭を捻ればいいのかもしれないけれど、捻れば捻るほど、何も浮かんでこない。それはまるでカラカラのぞうきんを絞っているかのように、僕たちの頭脳はもはや限界に達していた。


「……いったい全体、どうすればいいのだろうか。なあ、バルト・イルファ。お前の炎の魔法で、空に浮かばせることを出来ないのか? 例えば、このホバークラフト全体を」

「出来ると思っているのか。そもそも、僕の魔力じゃ、このホバークラフトをあそこまで浮かばせるほどの力を生み出すことは出来ない。いくら僕たちが『知恵の木の実』からエネルギーを分け与えられているからと言っても、限りはあるよ」


 知恵の木の実からエネルギーを分け与えられている。

 何だかんだここで初出の情報を手に入れたところでそれを持て余す未来しか見えてこない。

 ただ重要そうな情報であることは間違いないから、一先ず覚えておくことにしようと思うけれど。


「……ま。とにかくそんなことはどうだっていいわけだ。問題としては、どうやって」


 バルト・イルファは上を指差す。


「あの空間に行くことが出来るか、ということだけれど。そういえば、君、魔導書はどうした?」

「魔導書?」


 僕はバルト・イルファの言葉を反芻する。

 突然魔導書なんて単語が出てきて、いったいどうしたのかと思ったからだ。

 対して、バルト・イルファにはその単語に一つ宛があるようで――。


「君ね……。魔導書といえばあれしかないだろう? ガラムドが残した叡智の書、ガラムドの書だよ。あれにはたくさんの魔法が書かれているはずだ。そう、例えば……そこに『空に浮かぶ魔法』だって書かれているんじゃないのか?」



 ◇◇◇



 案外あっさりとその魔法は見つかった。

 百二十四ページ、移動魔法――『サイト・スイッチ』。

 その言葉を呟くと、同時に文字以外描かれていなかった魔導書のページに、魔方陣が描かれていく。それはまるでホログラムのような立体的に浮かび上がるような形だったけれど、きっとそれをバルト・イルファに説明しても理解してはくれないのだろう。

 そしてホログラムとなって浮かび上がった魔方陣は、そのままホバークラフトを飛び出して地面の上に描かれる。

 するとそこからふわりと風が吹き出して、上昇気流のようになっていた。


「……成程、ここに乗れば何とかなるかもしれない。移動魔法とは、そういうことだったのか」


 鳥が上空で羽ばたかないのは上昇気流があるから、という話を聞いたことがある。

 要するに、今の状況がそれだった。ホバークラフトでそれが可能かどうかは分からないけれど、先ずはやってみないとなんとも言えない。


「……それじゃ、向かうとしようか。だめだった場合は……なんてことは考えずに。ガラムドの書の中にあった魔法だ。失敗することはあるまい。まあ、それもガラムドを信じている人間ならば平気でそんなことを口にするのだろうけれど。君は?」


 正直、信じていようが信じていまいが使ってしまったのだから、信じるしかない。

 それが正直な感想だった。


「君がどう選ぼうと、僕は一緒に歩く。それは僕が勝手に決めたことではあるけれど……、それでも僕はついていく。君がこの魔法を信じているならば、僕もこの魔法を信じるということさ」


 ゆっくりとホバークラフトは動き出し、気流の発生している場所へと向かう。

 それはバルト・イルファも僕のことを信じているのだということにほかならなかった。

 或いは、僕ではなくてガラムドの書を信じているだけなのかもしれないけれど。

 そんなことを考えていると、ホバークラフトはあっという間に気流の発生源の場所へと到着した。

 今のところ浮かび上がる気配はない。かといってこのまま待つわけにもいかない。長い間吹き上げるような風が吹いているようだけれど、さすがにホバークラフト全体を持ち上げるほどの風は吹いていないようだった。


「フル・ヤタクミ。ほかに魔法はないか? さすがに僕も、ガラムドの書を信じているとは言え、これでは浮かび上がる様子がまったく見えてこない……」


 さすがのバルト・イルファも愚痴を言いだした、ちょうどそのときだった。

 ホバークラフトがゆっくりと、ふわりと浮かび上がり始めた。

 最初は、無重力の感覚を味わったタイミング。まさかそんなことが実際に起こりえるとは思わなかったためか、バルト・イルファはとても慌てている。ハンドルから手を離さない、いや、離したくない。そんな様子に見えた。


「ま、まさか……。ほんとうに飛んでいるというのか……!」

「そうとしか考えられないだろ。ほら、景色を見ると、まるでスローモーションのようにゆっくりと上に上がっていくぞ。やっぱり、ガラムドの書の魔法は凄いな。こんな大きいものまで空に浮かばせてしまうんだからな……」

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