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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第四章 邪神ヤルダハオト編
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第二百八十七話 死と新生⑪

「とりあえず。もう話はしなくていいよね? だってあなたから逃げ出したんだから。話を聞くことの出来る唯一のチャンスを、あなた自身が逃したんだから」

「……ええ、そうね。まあ、私は元から聞く気は無かったけれど」

「ふうん。いつルーシーを救えるかチャンスを伺っていたってわけね。まあ、別にいいけれど、そこまで気にすることでも無かったんじゃない? 確かにルーシーがああなったのはあなたが悪いけれど、それを悪いなんて認識していないのでしょう?」


 メアリーとハンターは対峙する。

 いつこの場からタイミングを見て抜け出すことができるのか、そんなことばかりを考えていた。


「言っておくけれど、もう私の目を誤魔化すことは出来ないよ。ルーシーを救うことがあなたにとっての贖罪と思っているかいないかは別として……いずれにせよ、ルーシーはもう救えない。あなたのせいでルーシーはああなったと言っても過言ではないのだから。まったく、勇者一同って案外薄情者ばかりよね。勇者があんなことをしたら、勇者を敵として扱っているんだから。勇者には失敗が許されない、ってわけかしら」

「そんなこと……!」

「思ってない、なんてどうして言い切れるわけ? あなたがどう思っていようと別に問題は無いとでも思っているのかもしれないけれど、大間違い。それはあなたとしての理論で、私としての理論としては……いいや、言い直すならば、世界としてのスタンダードとしては間違っている、とでも言えばいいかしら。あなたがどう思っていようとも、あなたは無意識に勇者を傷付けたということになるかな。寧ろ、そちらの方が問題のような気がしないでも無いけれど?」

「それは……」


 そこで、直ぐに答えてしまえば良かった。

 答えてしまえば良かった、のに。

 メアリーは直ぐに答えることが出来なかった。しどろもどろとまでは言わなくても、答えを発するためにその場で思考を停止しまったのだ。

 だから、隙を突かれた。


「あなたは、無意識のうちに勇者を傷付けた。けれど、同時に、あなたの中にはそれを諌める気持ちもあった。『そんなこと言われても仕方がない』という気持ちが。逃げるという気持ちが。あなたの中にはあった」


 徐々に、メアリーはハンターの言葉にのめり込んでいく。

 それは彼女の持つ魔力が、言葉に干渉しているのかもしれないが――そのことについてメアリーが理解しているはずもなく。


「……違う。違う、違う!」


 メアリーは頭を抱える。

 その場から逃げるように。

 その場から、逃げ出すように。

 その場から、その空間から、その世界から。

 メアリーはすべてから逃げ出したくなっていた。


「……メアリー・ホープキン。あなたは祈祷師の娘として一生を歩んできた。そして、あなたは祈祷師の娘という立ち位置が嫌いだった。そんなとき、神託があった。それは、予言の勇者に仕えなさいという神託だった。……それが私たちの計画に組み込まれていたものだということも知らずにね!」

「そんなこと……そんなことが」


 有り得ない、なんて言えるのだろうか?

 そんなことを言えるはずがない。メアリーは思っていた。彼女だって、そんなことは有り得ないって分かっていた。分かっていたけれど、それを彼女の中で客観的に肯定することは、出来なかった。

 出来なかったからこそ、気持ちの整理が付けられなかった。

 気持ちの整理が付けられなかったからこそ、つけいられる隙を与える結果となった。

 それはすべて、彼女の『甘え』が結果を生み出したことだ。


「メアリー・ホープキン。あなたはずっと逃げ続けてきた。あなたはずっと、己の運命を受け入れずにいた。そうして、縋るように予言の勇者――フル・ヤタクミと旅を共にした。その結果、世界が滅びる結果となった。そうして今度は『世界を復活する』という大義名分を掲げて旅を続けた。それもまた、あなたの『祈祷師リュージュの娘』という運命から逃げるため。すべて、そう。あなたはずうっと逃げ続けてきた。その生き方に、意味はあるのかしら?」

「私は……いいや、逃げてなんて……」

「ほんとうにそう言い切れるのかしら?」


 歩み寄るハンター。

 ゆっくりと、ゆっくりとメアリーは後ろへと下がっていく。

 しかしもともとこの空間は狭い空間だったために、直ぐに彼女は追い詰められていく。


「さあ、メアリー・ホープキン。いくら逃げようとしても無駄ですよ。あなたはこれ以上逃げることは出来ないのですから! 別に私はいいのですよ。認めてしまえば良いのです。逃げていたことを、リュージュの娘であることに葛藤を抱いていたと認めてしまえば。あとは楽なことですよ? あなたがどういう気持ちを抱いているかは二の次になりますが、そんなこと、私にはどうだっていい話だ。いや、寧ろ好都合と言ってもいいでしょうけれどね」

「好都合……ですって」


 メアリーは薄れゆく意識の中で、何度も反芻していた。



 ――自分は、必要だったのか?



 そうして、彼女はハンターの言葉に、押し潰されるように、意識を失った。

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