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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
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第二百六十九話 偉大なる戦い・決戦編㉞

「……にしても、あれで良かったのかい?」

「というと。どういうことですか」


 議事堂を後にしたオール・アイは、アインからの言葉を聞いて首を傾げる。

 燃えさかる議事堂では、今は火を消すためにすべての人間がかり出されていることだろう。しかしながら、今そこにはその原因を作り出した張本人は居ない。とうのとっくにどこかに消えてしまっているのだから。


「だって、一人残してしまっているのでしょう。ということは、相手が誰であるか彼女が説明できてしまう。もし、説明できてしまったら……」

「それは無理でしょう。アイン、あなたは人間の『恐怖』というものを少しばかり誤解しているようですね」

「誤解?」

「ええ。人間とは、かくも恐怖を覚える生き物です。一度力を見せつけてしまえば、その恐怖の源に再度興味を示すことはあっても、接触することはありません。否、正確に言えば接触を試みることはありません、と言えば良いでしょうか。いずれにせよ、人間はそう簡単に私の所業まで辿り着くことはできませんよ」


 鼻歌を歌いながら、まるで新しいオモチャを買い与えられた子供のように、楽しげに歩くオール・アイ。

 そして、二人はそのまま議事堂から姿を消した。



 ◇◇◇



 僕たちは今、オリジナルフォーズの圧倒的な力を目の当たりにしていた。

 まだオリジナルフォーズはジャパニアに到着していない。にもかかわらず、そのどこか遠くから撃ち放たれた一撃は、ジャパニアの半分を壊滅へと追いやった。

 いや、それだけではない。その攻撃は地殻を刺激したためか、先程から地響きが止まらない。

 ストライガーからの情報によれば、この惑星のマントルまで攻撃が到達し、このままでは惑星が幾つかに分裂する可能性が非常に高いとのことだった。

 でも、それは僕たちでは抗うことの出来ない事実であるということも、同時に知らされた。


「……生憎、何とか惑星が分裂しても何とかそれぞれの惑星は軌道上に乗ることが出来る。そう考えられていますが……、しかしながら今まで一つの星で暮らしてきた皆さんと別れる必要が出てくるのもまた、事実です」

「ストライガー。いったい何を言っている!? 星の分裂、だと! そんなこと、信じられるはずが……」


 言ったのはメリッサだった。

 結局、三人居たリーダーもオリジナルフォーズが放った一撃で傷つき倒れてしまった。


「メリッサ。あなただけでも……生き残ってくれて、ほんとうに良かった。あなたも倒れてしまっていたら、私たちはほんとうにどうすれば良いのかと……」

「そんなおべっかを垂れても、今の状況は何も代わりはしない。問題は……そうね。とにかく、この危機的状況をどうやって乗り切るか。それが一番重要とは思わないかしら?」


 メリッサはこんな状況でも冷静だった。

 ストライガーですら、この状況は想定外だったのか焦りを隠しきれていないというのに。

 いったいこの余裕はどこからやってくるのだろうか? はっきり言って、想像が出来ない。

 もしかしたらその可憐な見た目とは裏腹に、波瀾万丈な人生を送ってきたのかもしれない。このような状況で無ければ、話を聞きたいところではあるが――それは今、忘れておいたほうがいいだろう。

 それはそれとして。


「……それにしても、あの巨大な獣をどう対処すれば良いという訳? いくらなんでも、規格外としか言い様がない。あの獣をどうするか……、今の私たちには、それに対する術が見当たらない。それは先程の攻撃を見ても明らかでしょう?」


 そう。そうだった。

 さっき、メリッサたちは各々の攻撃をオリジナルフォーズに与えたばかりだった。そして、その攻撃はオリジナルフォーズが一切反応しないものであることもまた、目の当たりにしたばかりだった。

 人間が小さい羽虫に刺されたところで、気にはとめるかもしれないが、それを本気に殺意や敵意へと変えることは少ない。要はそのような状態だった。


「オリジナルフォーズ。まさかあれほどの強さだったとは……。さすがにそこまでは想像出来ませんでした。そして、それは私たちの計画の失敗と言っても過言では無い。明らかに失敗でした。ほんとうに、ほんとうに……」

「今はそんな失敗を悔やんでいる場合じゃありませんよ」


 僕は、やっとそこで発言をすることが出来た。

 押さえつけられていたわけでは無い。どうすればいいかずっと考えていて、結果的に自らの意見を押さえつけていたのだ。


「……じゃあ、どうすれば良いと思う?」


 メリッサは僕に問いかける。

 メリッサは僕を睨み付けて、さらに話を続けた。

 睨み付ける、というよりは、どちらかといえば舐めるように眺めていた、と言ったほうが正しいのかもしれないけれど。


「それは……」


 直ぐには、答えが出てこなかった。

 ずっと僕は考えていたのに。

 ずっと僕は――どうすればいいか悩んでいたのに。

 直ぐに答えが出ないことに呆れてしまったのか、メリッサは深い溜息を吐く。


「少しは期待していたけれど、どうやら間違いだったようね。ほんとうに、リーダーシップの無いこと。どうしてキガクレノミコトや使徒の面々があなたをリーダーに任命したのかしら。もしかして、あなたが腰に携えているその古くさい剣を使うに値する人間と思われたから? だとすれば、ほとほと呆れる。使徒の考えが間違っているとは言わない。けれど、あなたは、せめて少しくらい頑張ったらどうなの?」


 期待に応えろ。

 メリッサは僕にそう言っているようだった。

 確かに、その通りだ。僕はただやってくれないかと言われて、ただそのまま頷いただけに過ぎない。それが剣の試練だということを理解していたから。これをクリアすれば試練をクリアするに等しいと思っていたから。

 要するに、ゲームと同じ感覚。

 そういう感覚に、僕はとっくに陥っていた。

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