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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
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第二百五十八話 偉大なる戦い・決戦編㉓


 それから。

 僕たちは母親である秋穂の説得に追われることになった。一花が戦争に向かうことにまとまったから解決……なんてするはずもないし、そもそも普通に考えて娘が戦争に行くと聞いて黙っていられるはずもない。

 それに、突然のことだ。最初はまるで絵空事のように捉えられていたが、それもストライガーが話し始めたことでようやく事の重大さに気づいてくれたらしい。

 だが、それでも、彼女は一花の母親だ。


「……あなた、これをいつから知っていたの? どうやら、少なくとも今の時点では前から知っていたように思えるけれど」

「……、」


 僕は、直ぐにその答えを出すことが出来なかった。

 それは彼女に黙っていたから?

 それは彼女に嘘をついていたから?

 そのどちらもが正しく、どちらもが間違っていた。


「まあ、いいわ。仕方ないことよね」


 これから長い話し合いが続くかと覚悟していたが、あっさり秋穂は引き下がった。


「え……え?」

「なに? どうかしたの?」

「いや……、もうちょっと何かあるのか、と思っていたから。こうあっさり引かれるとは思わなかっただけだ」

「そりゃ私だって心配していないわけじゃないし、出来れば戦争なんて末恐ろしいものには参加してほしくないよ。だって、もしかしたら五体満足で帰ってこられないかもしれないんだよ?」


 その通りだ。

 現に僕が知っている限り、戦争に出向いて五体満足で帰ってこれた人間は少ないと言われている。なぜなら、誰もが『国のため』に戦うからだ、と。たとえ自らの身を擲ってでも、戦争に勝たねばならない。そんな強い思いが働いていたからだと言われている。


「……でもね、正直そんなことも言ってられないんだろうな、って思ったんだよ。今は平和だけど、いつその平和が崩れるか分からない。そのとき、私は家族を安心できるのかな? って、そんなことを常々考えていたの。それは、あなたにも、誰にも伝えていない私だけの秘密。けれど、今ここで打ち明けるべきだと思った。だから私は今言った」

「……知らなかった。君がそんな思いを抱いていたなんて」


 彼女はいつも明るく振舞っていた。

 だから悩みなんて無いんだろう。そんなことを、彼女の気持ちを知りもせずに思っていた。


「いいのよ、別に。こう言うとさらに捻くれちゃうかもしれないけれど……。隠したくて隠していたわけでもないのよ。気が付けば、隠していた……とでも言えばいいのかな。ただあなたが悪いわけじゃない。悪いのは、私もそう」


 秋穂はそう言って笑うけれど、それでも僕は秋穂に申し訳ないという思いだけが満ち満ちていた。

 何が仕方なくて、何が駄目なのか。もはやその答えを簡単に導けることなんてできやしないのかもしれないけれど。


「……そろそろ、まとめてはくれないか。はっきり言わせてもらって、時間が無いんだ」


 ストライガー、空気を読むということを知らないのか。今はどう考えてもそういう口出しはしちゃ不味いところだっただろう。


「空気を読むとか読まないとか、はっきり言って関係無いのよ。とにかく今は、人間の共通の敵……オリジナルフォーズをなんとかしなければならない。それくらい気付いているはずでしょう……?」


 分かっている。分かっているさ。

 でもスタンスとか雰囲気とか、色々な要素があるじゃないか。それについては、出来る限り崩してほしくないものだけれどね。こういうのは或いは『当たり前』とでも言うのかな。


「そうよ、あなた。これ以上話をごちゃ混ぜにしてもいけない。きっと、ストライガーさんはそう言っている」


 秋穂もそんなことを言い出した。

 さっきまで真っ向勝負と言わんばかりに、ストライガーと対抗していたのは誰のことだったかな。

 なんて、そんなことを言ってしまうときっとさらに話が絡まってしまうことだろう。とどのつまり、話をこれ以上かき乱さないためにも僕はその言いたいことを心の内に潜めておくしかない――ってことになる。


「……分かった。とにかく向かおう。準備は出来ているか、一花?」

「うん。お父さん」


 一花は僕の言葉を聞いて、はっきりと頷いた。

 ほんとうによく出来た娘だと思う。父親として誇りに思うと同時に、ここまで育てた本来の『風間修一』は人格者だったのだと悟ることができる。


「さあ、向かいましょうか。戦場へ」


 そして、僕たちはストライガーの言葉に従う形で、戦場となる場所へと向かうのだった。



 ◇◇◇



「どうやら、ジャパニアの蛮族は準備を進めているようですな」


 月夜に照らされたとある一室。フェリックスがオール・アイに語りかけていた。

 オール・アイは今夜も祈りを捧げている。その祈りが預言に繋がることはフェリックスを含め、神殿協会のほとんどの人間が知っていた。だからこそそれを無理に邪魔をしない。だから今の言葉も、重要なことではあるのだが、あくまで独り言の体で話をしなければならない。

 しかし、そういう不利益がありながらも、オール・アイの預言が無ければ神殿協会がこれほどまで強固な組織にならなかったことも事実だ。


「ミティカは如何なさいましょうか。オリジナルフォーズの『リセットプログラム』を聞いて困惑しているようでしたが。……まあ、そう思うのも致し方ありませんね。実際、我々の生死に直接関わるものだ。ミティカはひどくあなたに陶酔していましたから、殊更驚いたのかもしれません」

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