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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二章 ハイダルク編
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第二十五話 エルフの隠れ里③

 その剣をもって思った感想は一つ。

 その剣を持ったことにより、力があふれ出してきた。正確に言えば、その剣から力があふれ出ている、と言ってもいい。その剣を構えた時から、その剣に秘められた力が僕に流れ込んでいる――と言えば解るだろうか。

 そして、その感覚を感じているのは、僕だけではないようだった。ルーシーは弓を、メアリーは杖を見つめながら、その力に驚いているようだった。


「……行ける」


 僕はぽつり、そうつぶやいた。それはその力から出た自信の表れかもしれなかったが、現にそれほどの力を持っていたのだ。

 そして僕たちは、木の室を飛び出していく。

 目的はいつだって単純明快だ。

 妖精を乱暴に食べているあのバケモノを倒す、そのために。




「私がバリアを作る! だから、フルとルーシーで攻撃をして!」

「「了解!」」


 僕とルーシーは同時に頷いて、それぞれ行動を開始する。


「ねえ、こいつは一体どういうことなの?」


 ミシェラがメアリーに質問する。


「ミシェラは回復魔法が得意だったわよね。だから、みんなのサポートをして。バリアを作ると言っても、それでどれほど軽減されるか解らない……。だから、ダメージを受けた時素早く回復をする。それがあなたの役目よ」

「……解った!」


 ミシェラが物分かりの良い人で良かった。僕は心からそう思っていた。

 そして、僕たちは攻撃を開始する。

 メアリーが念じると、同時に僕たちの周りに球状のバリアが出現する。バリア、と言ってもこちらから攻撃することが出来る非常に曖昧な境界を持つものだったが、しかしながら、一番に彼女が驚いたのは――。


「嘘……。魔法陣も無しに、バリアを使えるだなんて……!」


 魔法陣。

 この世界の魔法は、円というファクターをもとにしていくつかの図形を組み合わせた陣――魔法陣を作り上げ、それにエネルギーを送り込むことで初めて魔法として成立する。

 しかしながら、今メアリーが発動させたそれは魔法ではあるものの、そのいくつかの工程をすっ飛ばしたものとなっていた。


「凄い……」


 ミシェラ、それにカーラは驚いていた。

 当然だろう。きっと、これはこの世界でも珍しい存在なのだ。魔法陣を使わずに魔法を放つという、その行為自体が。


「これで……終わりだ!」


 そして。

 僕はバケモノの頭に――剣を突き刺した。


「がるる、がるうううううううううう……!」


 同時に、苦痛にも似た表情を浮かべながらバケモノは雄叫びを上げる。

 なんというか、とてもやりにくい。

 表情が人間に似ているからだ。こんな敵と戦ったことなど(そもそも僕の居た世界では、『戦う』ということ自体がゲームの世界であることが殆どなのだが)無いので、とてもやりにくい。感情をそのまま、倒すという方向に倒しづらいとでも言えばいいだろうか。


「ここから……決める!」


 そして、僕は素早く魔法陣を描き――剣で強引に切り開いたその先へ炎をぶつけた。



 ◇◇◇



 そのころ。

 ラドーム学院の校長室では、ラドームが大量の書類と格闘していた。

 そんな庶務をしているところで、彼は何か――不穏な気配に気付いた。


「隠れていないで出てきたらどうだね」


 一言、隠れている相手にぶっきらぼうに言うラドーム。


「……さすがは、ラドームね」


 ぽつり、どこかから声が聞こえた。

 そして本棚のある部分がぐにゃり、と歪み――そこにぽっかりと小さな穴が出来た。穴から誰かが出てくるまで、そう間隔は空かなかった。

 純白の、いわゆる普通の着物を身に着けて、赤い袴、ポニーテールに近い髪形で烏帽子を被っていた女性は小さな水晶を手に持っていた。

 さらにもう一人、彼女の護衛――というポジションだろうか、がやってきた。

 赤いシャツ、赤く燃え上がるような髪、ニヒルな笑みを浮かべたそれは、すぐに人間ではない別の何かだと理解できた。


「合成獣を連れてくるとは、ほんとうに趣味が悪い人間だな。リュージュよ」


 その言葉を聞いて、笑みを浮かべるリュージュ。


「スノーフォグで争った以来かしら、ラドーム?」

「……そうだったかね? できる限り、貴様との記憶は忘れてしまいたかったので、もう覚えていないのだよ。まあ、まるで少女のような容姿をしおって。いったい、どういうマヤカシを使っているのか」

「あら。興味がわいてきた? けれど、教えてあげないわ。これは私が使ってこそ、生えるものだからね」

「フン」


 ラドームは鼻を鳴らして、庶務を再開した。とはいえ完全にリュージュを無視することなど出来ない。突然彼女がラドームを燃やす炎魔法を放ってきても何らおかしくない、彼女はそういう存在なのだ。だから、意識はあくまでもリュージュに集中させつつも、処理しなくてはならない庶務を片付け始めていた。


「我々は、神の一族。だから、折衝はいけない。折衝も、殺生も。別にジョークを言っているつもりではないけれど、それについては間違いないわよね?」

「ああ、そうだな。神の一族どうしで殺しあったら、ガラムド様が何を言い出すか解ったものではない」


 ラドームは庶務を進めながら、あくまでもリュージュに視線を移すことなく、言った。


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