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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
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第二百五十六話 偉大なる戦い・決戦編㉑

「運命?」

「そう。あなたは運命なんて信じませんか? ……なんて言葉は野暮ですね。いずれにせよ、あなたはこの先運命という言葉をきっと嫌という程聞くことになるのでしょうから。いくら人間だからといっても、わたしも『使徒』という人智を越えた存在の端くれでしたからね。それぐらい、理解できますよ」


 使徒。

 確かその存在は、ジャパニアでは神に等しい存在だったはずだ。なぜそれを知っているかと言えば、それは風間修一の知識から得たまでに過ぎないのだが。


「そうね。まあ、人間は運命をあまり信じないのかもしれませんね。かつては、運命や奇跡を信じた人間も多くいましたが、それも今や酔狂。結局は、この世界を人間だけで作り上げたと思い上がっているだけに過ぎないのですよ」

「そんなことを言ったら、あなたも人間ですよね?」

「ええ。私も人間、あなたも人間。けれどお互いにその存在からは一歩離れた存在である、そう認識しているはずよ。あなたも、わたしも」

「一緒にされちゃ困るな。あなたは確かに神の立場に近いのかもしれないが、いくら剣に選ばれたところで、僕はただの人間だ。……やっぱり、あなたと同格に考えられるのも、何かの間違いだと思うけれど」


 言ったところで話の流れは変わらないだろう。でも、言ったか言わないか……そこに意義があると思う。

 たとえ間違った解釈であったにせよ、発言することで自分の意思をはっきりと相手に伝えることが出来る。それは間違いではない。一つの明確な手段だった。


「まあ、あなたが何を言おうとしたって、世界は何も変わりませんよ。それこそ、世界の意思が働いているのですから」

「また、世界の意思か」


 僕は思わず口に出してしまっていた。

 ムーンリットという存在から幾度と無く耳にした『世界の意思』。

 その言葉を、まさかストライガーからも聞くとは思っていなかった。なんだ、この言葉、流行っているのか? そんなシニカルめいた発言すらしたくなるほどのデジャビュだった。


「……何か聞いたことがあるようね。だったら話も早いんじゃない? いくらあなたが抗おうと、世界の意思には抗えない。あなたは、それを知っているはず」


 世界の意思。

 まさかその言葉をまた聞くことになるとは思っていなかった。

 しかしながら、その言葉はムーンリットから聞いたものとは若干ながらニュアンスが違っているようにも感じられた。


「でも、それは間違っている」

「間違っている? いいえ、それはあなたの思想よ。あなたの思考が間違っている、というだけの話。或いは、逃げているだけ……とも言えるかもしれないわね」


 淡々と、ストライガーは言った。

 けれど僕は間違っていないと思った。

 間違っていないと思ったから、ストライガーに抗った。


「ま、別にいいか。あなたがどういう考えだとしても、たとえ神を信じていないにしても、あなたはこのまま世界を救うために尽力しないといけない。それはあなたにだって、理解できていることの話なのだから」

「ねえねえ、いったい何の話をしているの?」


 ストライガーと僕の話に割り入ってきたのは、一花だった。

 一花は僕の表情を伺いながら、首を傾げる。


「一花。だめだろ。ここは大人の話をしているんだ。今は、僕とストライガーさんで、ね。だから一花は出かける準備をしないと――」

「出かける準備出来たよ。ついて行くから、私」

「……は?」


 一花の発言は僕とストライガーにとって、想定外の発言だった。

 いったい一花は何を言っているのか――そんな思考を処理すら出来なかった。


「ねえ、あなた。いったい何を言っているの? どこかに遊びに行くわけでは無いのよ?」

「知っているわよ、戦争でしょう?」


 ストライガーの言葉に臆すること無く、一花ははっきりと言い放った。

 一花が戦争のことを前々から知っていることは、ストライガーにも教えていない。というか、前々から知っているというよりも僕が教えた、というほうが表現的に正しいのだろうけれど。


「戦争のことを知っていて……、それでもあなたは一緒に行こうというの?」


 こくり。

 一花は頷いた。


「なら、どうして?」

「どうして……って。何か、私にも出来ることがあると思ったから」

「それは、誰かに命じられて?」


 ストライガーはここで何となく『何か』を理解したのだろう。

 徐々に、子供の戯言とは思わずにその真因を探る質問に変えてきた。


「うん。何か言葉を聞いて……。為すべきことを行え、って」

「為すべきこと……。やはり、あなた。『声』を聞いたのね」


 声。

 その一言を聞いて、一花はゆっくりと頷く。

 そしてそれを見て、ストライガーは深い溜息を吐いて、僕のほうを向いた。

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