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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
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第二百二十二話 偉大なる戦い㉓

「……オリジナルフォーズは浄化の光を放つ、と言われているわ」


 唐突に。

 レイシャリオは何かを思い出したかのように、ティリアに告げた。

 その言葉の意味をいまいち理解できなかった彼女はレイシャリオに対して反芻する。


「浄化の光……っすか?」


 浄化の光。

 それはオール・アイが言っていたオリジナルフォーズの機能だった。

 オリジナルフォーズが使うことの出来る一機能『浄化の光』は、それにより多数の人間を葬ることが出来る。オリジナルフォーズは高温の熱源を体内に保持しており、そこから生み出された熱エネルギーを光線として吐き出す。それが浄化の光だった。


「浄化の光を使われてしまえば、きっと多くの人間が死ぬことでしょう。しかしながら、それも神の意志だとするならば……、私はそれでも問題ないだろうと思っていました。なぜなら、審判の時がやってきたと認識出来るのでしょうから。多数の信者はそう思うことでしょう」

「審判の時……。でも、あれは教典に描かれている伝説上の出来事に過ぎないんじゃ……」

「でも、現実に審判の時は起きようとしている」


 レイシャリオはティリアの言葉に上書きするように、少しだけ声を大きくして言った。

 レイシャリオの表情は硬い。それほど、彼女にとって『浄化の光』を重要なものであると位置づけているのだろう。

 浄化の光が発動することにより、人々の考えは真っ二つに割れることだろう。一つは浄化の光によって人々は天国へと導かれ幸福な道が切り開かれるであろう、そう発言する人もいるかもしれない。それは神殿協会の経典に書かれている内容だから、それを発言する人間は大衆の中の大半を占めることだろう。

 しかしながら、浄化の光を理不尽と思う人間も少なくないだろう。それが信徒であろうがなかろうが、突然神からの裁きを受けて全員が全員それに従うほど隷従な存在でも無かった。

 だから少なくとも何割かの人間は浄化の光に隷従することなく、反旗を翻すことだろう――それがレイシャリオの危惧していることだった。


「レイシャリオ様?」

「……うん? どうかしたかな、ティリア」

「いま、レイシャリオ様、とても恐ろしい顔をしていました。何か、とんでもないことを考えているのではないかと思いました……」

「そんなことはありませんよ」


 レイシャリオは噓を吐いていた。

 彼女の中にあった思い――それは到底ティリアにも話すことのできない内容だったことだろう。そしてそれは、誰にも話すことはしない。何かあったときは、彼女が墓場まで持ち込もうと考えていた。

 なぜならば、その話をすればきっと誰もがその意見に反対するからだ――レイシャリオはそう考えていた。


「まあ、別に何でもない話ですよ。しいて言うならばこれからオール・アイの話をいかに丸め込んでいくか。はっきり言ってそこが重要な話となってきますからね。あなたにもバリバリ働いてもらわなければなりません。準備はできていますか?」

「はい! ティリア・ハートビート、この命をレイシャリオ様に助けていただいてから、この命をすべてレイシャリオ様のために使うのだと決めております!」


 そうしてレイシャリオとティリアは廊下を歩き始める。

 レイシャリオとフェリックス。お互いの思いを抱えながら、神殿協会は前へ進み続ける。

 その先に何が見えているのか――それはお互いにしか解らない話だった。



 ◇◇◇



 僕は町はずれの茶屋に案内されていた。修行が終わっていつも通り帰ろうと思ったのだけれど少年――水神がどうしても見せておきたいものがあると言ったからには仕方ない。とにかく従っておいたほうが得策だ。ここで強引に断っておいて確執を生むのも今後面倒なことになりかねないし。

 水神の先導で茶屋に入ると、茶屋のカウンターに居た女性が目を丸くして驚いたような様子で声をかけてきた。


「あらまあ、あなたが人間を連れてくるなんてどういう風の吹き回しなのかしら?」

「御託はいい。いいから、地下への入り口を開けてくれ」

「地下の?」


 こくり、と水神は頷く。

 それを見た女性は水神と僕の表情を交互に眺めながら、やがて諦めたのか溜息を吐いてカウンターの横にあるスイッチを押した。

 同時に本棚の一つが後ろへずれていく。

 そして迷いなく水神はその本棚がずれていったところへと向かっていく。


「何をしている。いいから、急いでこちらへ来い」


 水神の指示に従って、僕はそのまま一緒の立ち位置につく。

 そして上からシャッターが閉まり、ゆっくりとその床自体が下へと降りていく。


「……あの、水神……さん?」

「どうした」

「いったい、今からどちらへ向かうのでしょう?」


 僕は一番気になっていた疑問を水神へぶつけてみた。実際のところ、もっと質問したいことはあったけれど、それよりも最初に納得させておきたいことは納得させておいたほうがいいだろうと思って、まずはその質問にしてみた。あとは、あまり口数が少なそうだし、質問責めにして機嫌を損なわれてしまっても困ると思ったからだ。

 それを聞いた水神は呆れたような表情をして、僕の顔を見上げた。

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