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異世界で、英雄譚をはじめましょう。  作者: 巫 夏希
第二部第三章 収束する世界と追憶編
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第二百十七話 偉大なる戦い⑱

 修行が終わったころには、すっかり夕方になっていた。


「今日の修行はここまでとしましょうか」


 哀歌の言葉を聞いて、俺は大きく頷いた。額にはお互い汗が浮かんでいて、息を立てている。それについてはお互いに疲れるまで修行を続けた、ということになるだろう。

 哀歌は僕にタオルを差し出してくる。それを見て、僕は有難くそれを受け取った。


「それにしても、最初はダメだと思いましたが……、一日である程度こなれて来るとは。やはり、最初に言っていた真剣を使っていたことは強ち嘘では無いのかもしれませんね」


 真剣を使っていた、と言ってもその戦いは魔術や錬金術によってサポートされていたから、その実力自体はそれらによって底上げされていただけに過ぎない。対して今の時代ではまだ魔術や錬金術がそれほど発達しておらず、おそらく戦闘に流用できるほどの技術もないのだろう。

 ともなれば、役立つものは己の剣しかなかった。


「……僕もまさかここまで動けるとは思ってもいなかった。とはいえ、実際のところ、これからどうしていけばいいのかも……なんとなく解ったような気がする」

「あら、そうですか? なら、とても喜ばしいことですね。私も、あなたがかなり筋があると思いますよ。時間があればさらに成長できると思いますから」

「それだが、どうやら時間も無くなってしまったようだぞ」


 そう言ってきたのは、少年だった。

 少年は哀歌の後ろに立っていた。しかしながら、哀歌よりも身長が低いから声を出すまでそこにいるとは思わなかったが。

 少年の話は続く。


「どうやら、いよいよ近いうちに敵も動き始めるらしい。どうやら敵はお前たち『旧時代の人間』をこの国が独占している事実が気に入らないようだな。……そんなことをしているつもりは毛頭無く、我々はただ保護しているだけなのだが」

「国?」


 どうやらこの世界も未来同様いくつかの国に分かれているらしい。

 となると、あの世界よりも広い世界が広がっている――ということになるのか?


「そう、国だ。しかもこの国よりも広い国ばかりが存在している、それがこの世界だ」


 その言いぐさは、まるで僕が別の世界からやってきた存在だということを知っているようにも思えた。

 しかし、そんなことはあり得ないはずだった。なぜなら今はフル・ヤタクミではなく風間修一として行動をしている。それに風間修一の記憶を保持しているし、なるべく風間修一であるように行動をしているから、気づかれることなどないはず――だった。

 少年は不敵な笑みを浮かべて、さらに話を続ける。


「いずれにせよ、この世界はかりそめの世界だ。かつて存在した世界が、いかに再生できるか……。まさかこれほどまで時間がかかるとは思いもしなかった。その間我々は、僅かに残った人類を何とか見守り続けてきた。そうして我々と人間の関係性は生まれた。崇敬ではなく、共存の道を歩み始めた」

「崇敬ではなく……共存?」

「古い仕組みは徐々に淘汰されていくということだよ。それがたとえ、神と呼ばれる存在であったとしても」


 少年は歩き始める。

 それは彼が知っていることを、少しづつ思い返しているようにも思えた。


「世界は変わろうとしている。変わり始めようとしている。それは、私たちのような存在を淘汰していくことだろう。しかし、それに逆らうことなどしない。逆らうことは愚かなことだ。それをするならば、私たちは死を選ぶ。……もっとも、人間は生き続けるほうがいいだろうけれど」

「ねえ……、いったい何を言っているの」


 ついに哀歌も突っ込みを入れたくなったらしい。少年の言葉に哀歌は割り入るように話を始める。

 しかしながら、それに気にすることなく、少年は踵を返した。


「私の名前は、水神。大神道会の『欠番』を務めているよ。……欠番とは簡単に言えば、神という存在のリーダーということになる。神という名前ではなく、私たちの組織では人間から『使徒』と呼ばれているがね」


 使徒。欠番。

 何だかよく解らない単語のオンパレードで頭が痛くなってくる。何かうまく解釈してくれるものはないだろうか。例えば聞いた単語を自動的に知っている単語に翻訳してくれるとか。無いか。

 水神の話は続く。


「私たちは常々この国……ジャパニアについて考えていた。この国は古くからの遺物が多く残る歴史の長い国家だ。それ以外の国、例えばグラディアやプログライトに比べればその歴史の差は只者ではない。しかしながら、戦力を考えると……この国には戦力があまりにも足りない。きっとあっという間に殲滅させられてしまうことだろう」

「どうして……世界が変わろうとしているのですか?」


 僕はそれが気になって――水神に質問する。

 水神は一笑に付して、話を続ける。


「簡単なこと。とどのつまり、彼奴らはこの国をゼロにしてしまいたいのだよ。彼奴らの言葉を流用するならば……『空白化』ということだ。そしてそのために、私たちを、昔からあった彼らが信仰する神以外の神である使徒を滅ぼすために、ジャパニアという国もろとも空白化を実施する。それが彼奴ら……『神殿協会』の望みだ」

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